羽織の記憶

今まで沢山羽織をいただき、新品も多いし、素敵な絞りのもあるのですが、今どきはなかなか着ることもないし、短いしどうしようと思っていました。

そうだ、外国人の方にプレゼントしようと決めて、それからアルゼンチン、イスラエル、ドイツ、マレーシア、オーストラリアと様々な国に羽織は渡っていきました。

 

ピンクとか赤とかかわいい系は意外と選ばれず、斬新なモダンな柄とか渋い絞りとかを異国の方は持っていきます。

 

今年のお正月の新聞に、赤と白の市松模様の羽織着た女の子が雪の日に家の玄関の前で佇んでいる写真が載っていました。

着物着た娘の写真撮るのは、親にとっては至福の時間です。鮮やかな赤と白の羽織を着た女の子はどんなに可愛かったか。

 

そしてこの11か月後。この女の子、横田めぐみさんは拉致されてしまいました。

 

色々な国の方に着物を着ていただいて思うのは、着物は着た方を記憶しているということです。お茶の世界での一期一会は着物にも言えるし、その重なり合った思いが着る人を余計美しくさせるのではないかと、外国人着付けしていて余計思います。

平和でない国の多い今、人と人、国と国のぶつかり合いの絶え間ない今、心も不安定な時に羽織る着物の色の重なり合いは、ふっと私たちを美しい無の世界に連れて行ってくれる・・・

 

このめぐみさんは、この時ご両親にとって、まぎれもなく永遠だったのかもしれないと思います。そして、また着てもらえると、この羽織は堅く信じているのです。