傷つくということ

 今日はドイツのヤングカップルとイスラエルの三十代の女性二人の予定でしたが、イスラエルからの飛行機が二時間遅れてドイツ人さんだけになりました。静かなカップルで男性は落ち着いたイケメン、女性はアジア系のような細身の眼鏡美人さんで、イタリアとドイツのハーフとの事、二人だし浴衣の選択も着付けも早くて楽でした。 

 ただ女の子のマリアの両腕のタトゥーがかなり目立っていて短い半そでだし顔立ちは日本ぽいし少々ドキッとしましたが、今どき外国人の半分以上はどこかに入れているし、別に今更驚くことでもないかと思って着付けしだしたら、タトゥーを隠そう隠そうとするし着物着て大丈夫かと心配するのでなんでだろうと思っていたら、どうも温泉とか行ったらしく入浴を拒否されたようでした。

 やまもと寛斎デザインの華やかな浴衣着て短い髪を頑張ってアップにし、稲穂と黒の粋なかんざしさしたら、いやいやすごい綺麗な着物姿の女の子に変身、「思わず綺麗ね!」と声が出ました。写真撮って茶道して柴又行って、皆さん着物着るとウキウキするんだけど、なんせ静かなカップルだからそんなにはじけず、でも彼氏がいろいろな事に興味を示し、まず腕にはめるお数珠を二つ買い、お線香の香りが好きで瞑想する時使うと買い、お酒が好きで日本酒入りのソフトクリーム食べ、店先の焼き鳥つまみ、みやげ物やさんのラムネのみ、駄菓子屋さんの射的をし(趣味はシューティングとか)こんなゲストは初めてでした。

 うち帰って浴衣脱がしてタトゥー綺麗ねといったらいろいろ説明してくれて、日本は入れ墨と言ってヤクザがするものだから拒否されるということもわかっていました。結構くつろいでベルギービール飲んだり柴又で買った佃煮食べたり団子食べてりしてからサヨナラのハグして別れましたが、夜に来たレビュー見てびっくり、本当に楽しかったようでした。後ろ指刺されるような注目でなく、きれい!可愛い!というみんなの視線やしっかり体を覆う着物に守られて、彼女はウキウキと参道を歩き彼に写真沢山撮ってもらい、心からこのひとときを愛していました。後で気が付いた、着物の魔力は彼女が持っていた何かのわだかまりを消し去る力を持っていたのです。

個人的な私達へのメッセージの最後に”You are beautiful human beings."とあって、一瞬「ホモサピエンス」=人類と訳すのかしらと迷ったけど、無難に「人間」でいいんだと思いつつ、なんとなく感無量でした。

 今私のスマホはメールも写真もすべて容量が一杯で危険状態にあり、前のを消さないと新しく入らず古い順に消去してますが、数が半端でなくて消しても消してもなくなりません。いろんな思い出があり、どの写真もメールも消し難いのですが、だんだん忘れっぽくなってきた私の記憶力はあてにならなくなってきています。どうしたもんかと考えていたら、何回も何十回も着られた着物や浴衣たちがそっとささやいてくれました。

大丈夫、私達が全部覚えているから。恋人たちの語らいも夫婦の温かさも親子の情も友達同士のはしゃぎっぷりも、そして禁断の恋も異端の愛も、みんな彼らは知っていました。そうか、うちは着物たちがhuman being だったのです。