訃報 news of a death 

 樹木希林さんが亡くなった。私たちに深い喪失感と悲しみがある。なんでなんだろう。

樹木さんは本当にたくさんの映画に出ていたし、最近は特にたくさんの賞をいただいていた。素晴らしい、さりげない演技に心打たれることが多かったが、彼女の場合、生きている意味を考える引き出しをいろいろ持っていた気がする。撮影現場で監督の求める物を次々に取り出し、自分の演技に当てはめていく。彼女はみんな知っているのだ。

 彼女の演技の実力を聞いたのは、外国人のゲストたちからだ。イギリスから来た男性に好きな映画は?と聞いたら、彼はスマホを操作して樹木希林さんが和菓子屋さんの帽子を被った映画の写真を出してきた時の私の驚き、そしてそれを見たポーランドからきたヤングママが熱烈に同意して二人で映画について語り合っていた。曖昧な英語の聞き取りしか私にはできなかったが、彼女への敬意がはっきり分かった。

いろんな監督や作品から必要とされていた女優さん。その精神性ははかり知れなく、でもありふれた温かさにも満ち溢れていた。

作家の井上光晴の娘さんでやはり作家の井上荒野さんがお父さんにいつも言われていたことは、「人は何かにならなきゃ駄目だ」「自分の一番大事な所を使える何かを見つけなさい」ということだったそうだ。

「これは自分だけのものだ、これに対しては誠実でいられるというものを一つ持っていると生きていて楽しい。自分の価値観で生きて欲しい」

 傍から見たら何をやっているんだと揶揄されても、自分の価値観、誠実さ、品格で生きていくと、いつか何かが乗り越えられていくんだろう。

 満身創痍の体抱えつつ、ひょいひょいと生き続け、すっとあちらへ逝かれてしまった樹木さん。来月公開される最期の作品は日日是好日というお茶の先生の話のようだ。私たちにとって残して下さったものの多さがひたすら有難い。