花は咲く

 寅さんサミットというイベントがあった日曜日、帝釈様はとても混んでいました。お天気も良くて七五三の親子連れがいたり、境内ではお茶会があってたくさんのお着物のご婦人たちがいらっしゃいました。

 臨時の予約が入ってヘルシンキ、メキシコ、オーストラリアから一人旅の三人のゲストを柴又にお連れしましたが、あまりに着物の女性が多かったので今日はさすがに目立たないだろうと思っていました。ヘルシンキの背の高い看護師の女の子は緑の地に花が咲き乱れている小紋を着てはじめての着物体験にワクワクしていました。混雑の中一人で先に境内に入ってしまい見失って慌てて追いかけたのですが、着物姿の多い中でちょっと当惑したように佇んでいる彼女を見つけた時、本当にびっくりしました。

 ブロンドの髪にグリーンの花模様の小紋着た彼女が、浮かび上がるように光っているのです。ゲスト連れて歩いていると通りすがりの方々が「綺麗ねえ」と驚いたように声をかけて下さるのですが、その気持ち初めてわかりました。きれいなのです。

 お茶の先生が大きなお茶会にいって何百人という着物姿を見たけれど、きれいだなと思う人は誰もいなかったと言っていたのを聞いておかしかったのですが、確かに私も着物着てお茶会行ったり歌舞伎見に行ったりするけど自分も含め、きれいだなあと思う着物姿はあまり見たことありませんでした。

 

うちのゲストの皆さんは花が咲いているように、ただ無欲に無私に着物を着ています。

花は咲くという歌を不意に思い出しました。

 

花は花は花は咲く いつか生まれる君に

花は花は花は咲く 私は何を残しただろう

震災の時作られた歌だそうですが命を慈しむ気持ち、今生きている自分が何をしていけばいいのだろう、というメッセージとして私は受け止めています。

 着物のいのち、着ていた人のいのち、想い。頂いた着物の中にはどうにもこうにも着ていた方の思いが重すぎて着ることができないものがあります。その持ち主の方が着ただけで咲ききった着物。その着物は幸せだったのでしょう。さぞきれいに着てらしたことでしょう。

 着物の命をいろんな形で全うさせたいと心から思います。