WASABI わさび

 十一月最後のお客様はポーランドから来た新婚カップル、旦那様は歯医者さんの家系の家に育ち自分も歯科の勉強中で、奥様はエンジニア、三週間のハネムーンは面白いことがたくさんある日本で過ごすそうです。後は前日に化粧関係の仕事している女の子と、一人旅の男性の予約が入り、計四人ですが男性二人だからそんなに負担じゃないと思っていたのが大きな間違いでした。最後にいらした急な予約の男性に男物の着物着せようとしたらにこやかに「女物の着物が着たい」と言い出し、えーっと思いつつ意志が固いので女物の着物の棚にお連れしました。楽しそうに選んだのは私の紫の小紋に白地の帯と帯締め、帯揚げは踊りの先生からいただいた派手な紫、177㎝の男性にも私の着物は対応できて、意外にも綺麗に着付けができました。それから私はほかのゲストの着付けを始めたので、女物着た彼の姿をきちんと見ていないのですが、楽しそうに沢山写真を撮って、それから今度は男物の着物を着てくれました。演出家の宮本亜門さんに似た爽やかな彼は柴又の参道のお店の人にも愛想よく、もう一人の一人旅のピンク尽くしを着た女の子の写真を撮ってあげたりいつもニコニコして、お友達のお土産にイナゴ(グラスホッパー)の佃煮を買っていきました。

 男物の着物を着るだけで一人でうちの体験をするだろうか?突然沸き起こってきた疑問です。前に娘が留袖ナイトという変わった集まりに参加したことがあって、みんなで留袖着て東京駅の近くに集合した時、結構男性も混じっていたのでびっくりしたのですが、考えてみれば歌舞伎は皆男性だし、外国人の方々が着物着るのと、男性が女物着るのと、あまり変わりがない気もします。よくわからないけど、男性でもっと女物着たい方がいればそれはそれで需要が増えるから、いいのかしら。

 ポーランド夫婦が何で日本人は写真撮る時「チーズ」って外国語を使うのか、あてはまる日本語はないのかといっていたのですが、最後にみんなで写真撮る時、彼らは一斉に叫びました。「WASABI」ああそっか。これが日本語のチーズなんでした。