初釜

 今日は初釜でした。お天気も良く絶好の着物日和で何を着ようかと迷いましたが、昨日のゲスト、ニューヨークから来た中国のカルメンさんは着物がなかなか決まらず、三十枚近く広げて迷いに迷った挙句、斬新な大島紬を選びシックに着こなして柴又を満喫してくれましたが、後片付けが大変でかなり疲れていたので、着物は着やすい紫の小紋と菊の刺繍の帯にしました。この小紋は北アイルランドの弁護士のお姉さんやアメリカのママやフランスのジョセフィーヌやそして男性なのにどうしてもこの着物を着たいといったジェームスなどたくさんのゲストが着たもので、なんとなくこれを着てくださったみんなと一緒にお茶味わおうというノスタルジックな気持ちで選んだのですが、席中で初釜に小紋はいけませんと先生に注意されてしまいました。

 お茶は決まり事の世界なのですから、それに従わなければいけないのに、自分勝手に思い込んで勝手をしている私はどうも異分子のようで、だんだん居ずらくなってきています。迷惑かけたり嫌な思いをさせてしまっては申し訳ないので、そろそろ引き際だろうと思うのですが知らないことだらけの世界を知ることには、まだ未練があるのも確かです。

 ゲストの外国人の方々に、最後に夫と私のためにお茶を点ててくださいとお願いして、共同作業でシャカシャカと茶筅でかき混ぜるのだけやってもらうのですが、みんな初めての経験なのに、私たちはいつも飲んだ時ああおいしいと思います。ただ湯を沸かしお茶を点てるだけのことを、こんなにたくさんの外国人にしてもらえるなんて、本当に幸せなことです。

 「人生とは、今生きている、この瞬間のこと」 初めて日本に来て、着物着て、お茶を作法通り飲んで、お茶を点てて、飲んでもらってああおいしいと言ってもらうって、日本人だってそうある経験ではないのかもしれません。ほんの15分ぐらいの短い時間なのですが、自分の心の中に平安があって、時間を超越した美しくシンプルな場所で、幸せだと思える時を味わってもらえればうれしいです。

 感情をコントロールし、エネルギーの方向を定め、技術を尽くして仕事をしていきたいと思っています。