ラフマニノフ

 朝早くテレビつけたら名曲アルバムという短いクラシック番組をやっていて、ラフマニノフのチェロソナタがかかっていました。素敵な調べとともにロシアの田園風景が広がり、彼の祖母の広大な別荘で若い日を幸せに送り作曲にいそしみ可愛い従妹と結婚して暮らしていたというナレーションを読んで幸せっていいなあと羨ましく思っていたら、次の画面で「しかしロシア革命が起こり土地も家も没収され、彼は出国してアメリカに渡り二度とロシアの地を踏むことはなかった」とでていて、私はおもわず息をのみました。

 革命とか戦争とか世界史で習ったり映画で見たり本で読んだり知識としてはあるのですが、最近は外国人と接していてリアルにいろいろなことを感じるし、一歩先にはなにがあるかわからない世界に今自分がいるという感覚が増してきています。歴史は絵空事でもないし受験の材料でもない、これはまぎれもない事実であり一度起きたことはまたそれを起こす人間が現れるかもしれないという事を覚悟して、それこそ味方のふりをする者をかぎ分けて身をまもりながら生きていかなければならないと思っています。

 そのあとラジオのスペイン語講座聞いていたら講師のメキシコ人の女性が自国の歴史を語っていて、「スペイン人がメキシコにやって来た当時、メキシコの中央高原のテスココ湖に浮かぶ小島にアステカ人と呼ばれる先住民が住んでいました。Cuando los espanoles llegaron a lo que es ahora la Ciudad de Mexico, los aztecas vivian en el lago de Texcoco , en un islote.アステカ人は島を本拠地として広い地域を支配し、島には軍神ウイツイロポチトリHuitzilopochtliを祭る大神殿Templo Mayprなどの建築がそびえていました。ところが、Los españoles no tuvieron reparo en profanarlo y mucho menos en torturar al ultimo emperador.そこにスペイン人がやってきて、ためらうことなくこの神殿を冒とくしました。最後の国王はむごい仕打ちを受けました。こうしてアステカの国は滅びました。」とのことでした。

 ひどい話だと聞いていましたが、アステカ王国も生け贄をささげるためかなりひどいことをしてきた国で、やってきたことが自分にはね返ってくるのかと納得しつつ、俯瞰して見ていると人間は大きな大渦巻きの中で巻かれながらほんの短い寿命を生きているんだということを感じます。

 いいことも悪いことも長くは続かない、自分のしたことは後で自分にはね返ってくる。些細な日常のことでも、天下国家にかかわる重大なことでも同じなのかもしれません。

 昨日はカナダのトロントに住む中国人の母娘さんがいらしたのですが、綾瀬からタクシーで来たのにびっくり。生後三か月の赤ちゃんを旦那さんに預けて二週間東京観光することにびっくり。私より一回り若いお母さんが帝釈天で千円札出してお寺に奉納してくれと言ったのにびっくり。お寺の中ではお線香をあげられないのでかわりに一本30円の蝋燭を三人で三本灯しました。今度からゲストとろうそくを奉げるようにしましょう。彼女たちはあまり旅行慣れしていないから私が一緒に色々回るのがよかったようで、柴又駅でここから近い観光地の駅名、上野や浅草、押上など教えたり、高砂のヨーカドーには100円ショップがあることいったら、ママは帰りに寄りたいとのことでした。

 

 ラフマニノフがロシア革命の前に祖母の邸宅で自然や風土を満喫し、たとえそこに一生戻れなくてもその時の記憶と幸福感と永遠性は彼の根幹となり、そののちの運命がいかに過酷であっても彼のアイデンティティは確立されていったのでしょう。ラフマニノフの曲はたとえ短調でも、どん底まで落ち込むことはない。基本的にはどこか明るくて幸福感に包まれるような、生きる喜びにすら満ちているといいます。

 ほんのつかの間の出会いですが、それぞれのゲストたちにはそれぞれの生い立ちや民族性,歴史や想いがあります。若い時は何かを表現できるようになりたいといろいろ模索してさまよったものでしたが、今は何をあせるでもなく、でも若い時の模索の感情がやはり大きな財産になっていることは強く感じています。

 今日はリストのピアノ曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」聞きながらどの着物を今度のゲストに着せようと考え、着物の整理をしていました。そういえば仕事でミュンヘンへ一週間行っていた息子が明日帰ってきます。ドイツ人は大きくて真面目です。そうそう2メートルのお兄ちゃんもドイツ人でした。明日はカナダのウッドストックから188センチと179センチの夫婦がやってきます。大きい!どうなりますか。今日の私の頭の中は脈絡なく漂う小舟のようにあっちこっちさまよっています。