横田めぐみさんの着物

 なんだかよくわからないうちにトランプ大統領夫妻が来日、土俵に上がってトロフィーを授与するというので、久しぶりに表彰式をしっかり見ましたが盛大な拍手を浴びていました。ゴルフ、晩餐会、いろいろな行事のあと拉致被害者家族との面会が行われたのですが、その会見の共同写真を新聞で見てびっくりしました。拉致された横田めぐみさんの弟さんが持っている赤と白の市松模様の羽織を着た着物姿の写真、二年前のお正月に新聞に掲載されていてあまりの可愛さに、カメラで撮ってパソコンに取り込みブログに「羽織の記憶」として出したものだったからです。 そのころ着物着てくださった海外のお客様に頂き物のたくさんの羽織を差し上げていて、50枚以上になったでしょうか、世界中のあちこちに羽織が散らばって国際親善してくれていると嬉しかったのですが、それなのにめぐみさんのあの市松模様の羽織はその時からずっと着てもらえていないのです。いろんな方から様々な思い出や歴史を持ったたくさんの着物いただいて外国の方にお着せしていると、着物には魂があると思える時があります。生半可に着せると怒りだしかねません。

 問題の多いトランプ大統領は敵も多いでしょうし、うちに来るゲストに”Do you like Mr Trump?”と聞くとたいてい”No!"と答えるので人気もないのでしょうが、本能的に悪に敏感で、何のためらいもなく叩かれたら叩き返すのかもしれません。悪いことを平気でやっていて、人を苦しめて平然としていられる人間、お釈迦様を棒で叩こうとしたり苦しめたりする柴又の彫刻版の一枚を思い出しました。私たちは今どこにいるんだろう、めぐみさんは今どこにいるんだろう。そしてトランプ大統領夫妻との面会の席に掲げられた赤い市松模様の羽織を着た写真は、めぐみさんのいる場所への入り口なのかもしれません。北朝鮮の何が悪意なのか、民族なのか個人なのか血なのかアイデンティティーなのかわからない、ただ悪いことを無意識にでもやっている人間には心の平安も永遠の幸せもありえないのでしょう。そういう人間と戦うにはどうしたらいいか。

 そしてめぐみさんは毎日どんな気持ちで暮らしているのでしょう。家族がいて娘さんもいて、普通に生活をしているのでしょうが、多分旅行も行けず、半分拘束された状態なのかもしれません。戦国時代でもなく、世界大戦中でもない、令和の時代なのに、なぜこんなひどい状態が続いているのか、トランプ大統領夫人のメラニアさんが話を聞いていて思わず涙ぐんだとか、普通に人間として反応してくださる方でよかったと思いました。

 X-JapanのToshlが歌っているクリスタルメモリーズという曲を今ずっと聞いているのですが、先だってアイススケートショーでこの綺麗な曲で滑った羽生選手がこれは戦いの歌だと言っていると聞いて、改めて歌詞を読んでいます。

 Open your eyes wide   Listen to your heart    The spirit was broken into pieces in the distant past   

 The higher walls are there for a reason    They let us prove how badly we want things    You can raise your hopes    you can touch your bravery   

 Crystal memories in the sand of time     A sailing journey  Beyond the universe  I,ll be with you   You are marvelous  Change your destiny  No matter how much pain you feel   You,ll return with love  

  Open your arms wide   Listen to your breath   It is not the length of life, but the depth of life    You can raise a revolution    You are not alone any more

 Crystal memories in the sea of time  A sailing journey   Beyond time and space to the end of the world   We are marvelous   Change our reality   When it,s dark enough  you can see the stars    Don,t be afraid   Believe in yourself 

 魂は遠い昔に粉々に砕け散ってしまった  目の前にそびえたつ高い壁、それにはきっと意味がある  欲しい物があるならば必ず乗り越えることができるはず。運命を変えるんだ どれほどの痛みを感じたとしても君は愛とともに帰ってくるだろう。怖れないで、自分を信じて。

 

めぐみさんのことはどうしても他人事と思えません。あの国のありえない考え方、常識でははかれないことごとを圧倒的偏見を持って抹殺し、自由になるために、戦わなければならない。でもどうやって?核兵器もミサイルも持っている。

 お釈迦様を亡き者にしようとあらゆる手段を使って攻撃してくる者たちをなぜほっておくのかと弟子たちが問うた時、お釈迦様は取り合わないでいれば、その悪は自分にみな返っていくのだからと答えられ、私たちは常に正義を尽くし、誠意を尽くし己を振り返りながら精進し努力していかなければならないのだと諭されたと言います。

 私は何のために着物の仕事をしているのか、たくさんのゲストと会って話して何を考えてきたか、めぐみさんの着物の写真を見てあらためてわかった気がします。

 もうすぐめぐみさんは帰ってきます。