あん

 スケートのアイスショーの録画撮りしようと新聞のテレビ欄見ていたら、スケート番組はなくて樹木希林さんが主演したあんが放映されるので、録画しておいて今朝3時から見ました。一年前にドイツのカップルとポーランドのヤングママが来たとき好きな映画はと聞いたら「あん」というので本当にびっくりしました。私が見ていないとも言えず言葉を濁していたら、三人でこの映画についてのマシンガントークが始まり、外国でも評判の良い映画で賞もとった、和菓子つくりの名人のおばあちゃんがハンセン病だったと語り合っていました。その当時はゲスト同士のトークがもり上がればかえってありがたいことで、こちらは黙って見守っていたほうが疲れないでラッキーみたいな気持ちもあって、ゲストの交流の場として器だけ作ればいいと思っていたので結局映画も見ないでいたのですが、今日じっくり見て、その内容の深さとフランスもドイツも制作にかかわっていて、40か国以上で上映されていたということを知り、相変わらず無知な自分に恥じ入りながらも、今この時点でこの映画を見たことの必然性をひしひしと感じています。

 今まで上皇ご夫妻が全国のハンセン施設を訪ね、自ら親しく触れ合うことで偏見や差別をなくそうと努力なさっておられましたが、映画では浅田美代子扮する市井の人々のすげない噂話でどら焼きは売れなくなるし、もしこれが現代なら誹謗中傷はSNSなどであっという間に拡散してしまいます。原作はドリアン助川さんで、彼の本は読んでいて考え方の傾向など同調できるところが多かったのですが、彼のライブコンサートにハンセン患者さんが来たことがきっかけで交流がはじまったのだそうです。閉ざされた空間のみでしか暮らせず、故郷にも帰れないし親兄弟とも接触できない、何のために生きているんだろうとしか思えないようなとき、手に職を付けようと製菓技術を学び50年間あんを作り続けたおばあちゃんは、療養所の中で聞こえないものを聞こうとし、見えないものをみようとし続けながら、素晴らしいあんをつくるのです。刑務所帰りで自暴自棄になりかけていたどら焼き屋の店長が生きる意味を見つけたのは、小豆の言葉がわかるハンセン病のおばあちゃんに小豆の作り方の極意を教わったからで、とことん打ち込める技やすべを体内に取り込んでおけばどんなところにいてもなんとかなる。

 前に数学者で大道芸人のピーターフランクルさんがユダヤ人ということで迫害され続けたお父さんから言われ続けてきたことが、すべて奪われ身一つで逃げなければならない時をいつも考え、技をとことん身に着け、頭の中にすべてを叩き込み、生きていけということだったと思い出しました。とことん傷つけられ苦しんだものだけが得られる生きている意味、風のそよぎ、日の光の温かさ。自分の顔も見せずただ人を傷付けているだけの人間たちの空虚さ。

 多分これから私の仕事も難しさを増すかもしれないし、気を付けなければならないことも増えてくるでしょう。でも怖れることなく、いろいろなことのレベルを上げて、いろいろなことを頭と体に叩き込んで、行きます。