六月のお仕事

 六月は四回お仕事しただけで、あとは着物の衣替えしたりお手入れしたりと季節の変わり目でやること多く忙しいのですが、久しぶりにゲストが来るとなると急におっくうになって逃げだしたくなったりして、困ったものです。

 昨日は北京から37歳の大学の先生をしている女性と9歳のお嬢さんがきました。家の中で写真だけ撮れるように七五三の着物を何枚か用意して、お外は暑いので薄手の着物も用意しました。ママは174センチの長身で着物の好みはなく私に選んでくれというので、まだ誰も着たことがないグレイの単衣の訪問着を着せたら、大柄なので模様の花が映えてとても綺麗でした。小さい時から本ばかり読んでいたというインテリのママは、写真撮るときは必ず眼鏡をはずすし、ルーズなアップ姿が色っぽくてきれいですねえと道で声をかけられたりして喜んでいました。会話とかしてると大学の先生だなあと思うことが度々で、柴又駅では電車待つ間にお仕事のメール打ったり何かリサーチしたり、いつもとは違う雰囲気でした。なので、別れ際もあっさりとハグなしで帰り、中国の方は意外とこんな感じが多いなと思っていたら、翌日来たレビューが理知的で、 Admiration and respect for people like her who helps pass down the tradition from generation to generation and in our case across borders  。伝統を世代から世代へ、そして私たちの場合は国境を越えて伝えてくれる彼女のような人々への賞賛と尊敬・・

  着物を感覚でとらえず理性で捉えているし、おみくじ引いても英文をお嬢さんに読ませて英語教育してるし、自分もお子さんも一人っ子で恵まれ教育もしっかり受けているのですが、だからこそ自分の民族性に対する違和感、根っこのアイデンティティーの不安定さみたいなものは時々感じたりしました。最後羽織をプレゼントしてから帰るまでに、たいていのゲストとはハグするのですが今回はそこまで行けず、あっさり別れたのですが、あとで写真を整理していたら着物姿のママの表情の素敵なことにびっくり、ママに送ってレビューにも出してもらいましたが、この柔らかな美しさが彼女の本質なんだなあと感じました。絵を描くわけでもないのだけど、これは私にとって絵を描くような作業です。レビューの公開返信に、「私はあなたに対して一つ忘れ物をしました。ハグできなかったこと。」と書いたのは初めてなのですが、本心です。今まで味わったことのない気持ちでした。一つとして同じ出会いはないし、だんだん着物体験は真剣勝負になってきています。