柴又にハンガリーの大統領が・・

きょうはスロバキアからの若いスレンダーなカップルがくるというので、作り直した男物の紬やら若向きの細身の着物を用意していたら、突然以前に来たゲストでテキサスの看護師さんの友達のテスが予約してきて、そしてかなり早くに現れ、この56歳のフィリピン生まれの看護師さんのペースでどんどん体験は進んでいきました。気さくでとてもフレンドリーなんだけど我が道を行くタイプで、あとから来たスロバキアの静かなカップルは取り合えず主人に接待してもらいながら、最近一組とかのゲストが多いので多民族が集うと結構気を使って大変です。わたしもテスを着付けながら「お仕事はエンジニア?」と二人に聞いたらビンゴ!「なんで知っているの」と返され、理性的で頭がよさそうだからといってもきょとんとしてました。(あとで主人がスロバキアには大きな産業はないのではないかと言っていましたが)

 彼氏はこの前娘の知り合いのキサブローさんという着物デザイナーの実家の仕立て屋「岩本和裁」に頼んで女物の素敵な紬を男物に直してもらったものを選び、彼女はダークな色が好みで今まで誰も着たことがない紫に直線的な蝶の模様の付いた小紋を着たいとのこと。170センチの長身なので普通サイズの着物でおはしょり出るか心配でしたがぎりぎり大丈夫で、とても素敵、テスもブルーの花模様の附下にピンクの帯を締め写真映えする色で綺麗でした。

 柴又いってもテスはいろんなお店のぞいて写真撮ったり通りすがりのおじさんつかまえて自分の写真とってと頼んだり目が離せず、スロバキアのヤンがこっそり「アメリカ人はおかしい」と私に日本語でささやき、どこで日本語覚えたか聞いたらアニメ「るろうに剣心」など好きで、そういうのなどで勉強したとのことでした。そしで私が何回かぎりぎりといっていたのが気になっていたらしく、「ぎりぎりという言葉の意味は何か」と質問してきました。私言ったっけ?と聞いたら「言った言った」というので記憶をたどり、思い出して、「背の高いミリアムに普通サイズの着物を着せると長さがぎりぎり、小さいテスが同じ着物着てもぎりぎりでない」という訳の分からない返事で納得させました。「あなた方はどこの国の人と間違われるか」という質問が上手くできず、日本語混ぜてヤンに聞いていたら、ミリアムが理解して「ポーランド人」と答えてくれたりして、スロバキア人はなんとなく不思議な感じがしました。写真撮るのもあまり好きではないみたいだけど、ミリアムはクールビューティーだし、着ている着物が通好みだし、すれ違った女性が「素敵!」と拍手してくれて私はとても嬉しかったのですが、この着物日本人が着てもここまできれいには見えないのです。私の仕事の真骨頂はここです。

 モーターバイクが趣味のミリアムとインドア派のヤンは両方一人っ子、33歳と26歳、そんなにラブラブではないクールラブみたいで、割とヨーロッパのカップルはそこらへんがはっきりしない気がします。日本の作家で好きなのは?と聞くと村上春樹、「海辺のカフカ」が好きで「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も読んだみたい、ヤンにぴったりのどちらかというと優柔不断で静かで悩む主人公でした。こういう話、日本人とはできない、というか粋な着物着た外国人、日本の小説読む外国人の感性の方が本質を理解していると思えてなりません。ヤンは村上春樹の「騎士団長殺し」は読んでないというのでぜひ読んでと勧めながら、テスに何が好き?と聞いたら、ディズニーのダンボだというのでおかしくなりました。健全で勤勉でバイタリティーあふれたフィリピーナのテスはたった一日の日本滞在を私の体験に使ってくれて、ラーメン食べてテキサスへ帰るそうです。(マニラ滞在が今回の旅の目的でした)

 今日一番困ったのは即位の礼で来日しているハンガリーの大統領が夕方柴又に来るというので、帝釈天の庭園や彫刻ゾーンが貸し切りで入れなかったことで、ヤンにそのこといったらハンガリーの大統領はいい人ではないよと肩すくめて言われ、参道の皆さんがハンガリーと日本の小さな国旗持って到着まっているのを横目で見ながら私たちは足早に帰りました。彫刻ゾーンに行ってもテスとヤンやミリアムの反応は違うだろうし、まあ今日は代わりに山本亭行ったし、いいかなと思いましたが、ずっと前にうちの家は山本亭よりもっと大きいし庭も広いといったテキサスのゲストもいたので、やはり宗教がらみで話ができる帝釈様は外せないところです。しかしチェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ポーランド、スイス、そしてロシアからのゲストは感覚が違います。ほんの四時間の付き合いだし、うちの場合は着物を着せるから、普通の観光案内とはちょと違うのですが、フランスの家族6人連れて案内している女性とすれ違って、子供たちがあまり面白そうでないので、大変だなあと思います。とりあえず無事終わり、ラストは頂き物の日本酒をみんなでおちょこで一杯飲んで乾杯して別れました。初めての日本、昨日着いたばかり、そしてうちの体験は奇妙だったかもしれません。ごめんね、みなさま。