三回目の体験

 メキシコのレティシアが三回目の体験に来てくれました。何故かいつも一人だけになってしまうのだけど、今回は韓国からビザを取るため来る?ということで、滞在も三日間なのにまたまた来てくれて嬉しい限りです。まだ二十歳、でも独立心と感受性の優れた彼女は、なんとネットで知り合った韓国のイケメン男子と恋に落ちて、三か月語学研修のため韓国に滞在するためにきたとか、韓国男子の恋人持っているゲストが増えてきた気がします。日本人の男の子はもてない気がする、真面目で堅すぎるし面白くない(ドイツ人、ロシア人も同じと中国の女の子達に言われたことがあります。しかし、彼女たちに言われたくない)というのもわかるけど、Kポップは私はあんまり好きじゃないのですがねえ。

 初めての恋に夢中のレティシアは、韓国語が読み書きとも不自由なく出来ていて、歩きながらハングル語で彼とラインして実況中継していますが、彼は英語はできずこれからスペイン語を勉強するとか、しかし恋愛が一番語学が上達するというのは本当だなとつくづく実感しましたし、一瞬私もハングル語勉強しようかと思ったくらいなのです。本人もこれからどうなるか全くわからないと言っていましたが、20歳なんだからいろいろ体験した方がいいと思いつつ、メキシコのアカプルコの近くの街が生まれ故郷だそうで、今はアリゾナのフェニックスに家族と住んでいますが、自分だけをよすがに生きたいように生きているし、わたしとは歳は違うし国も環境も違うけど、帝釈天の彫刻ゾーンの生老病死の彫刻見ながら思わず涙ぐんだ彼女の感性を何よりも共感を持って受け止めています。とにかくまだ20歳、この恋が実らなくてもいろんなものを吸収していくのでしょう。でもメキシコの歴史、韓国の成り立ち、遠い国の話ではなく、身近に関係してくるものになってきています。

 作家の沢木耕太郎さんが「午後の異邦人」という題名のエッセイを日経新聞に書いていたのですが、日曜の午後渋谷からバスに乗ってしばらくしたら、乗客が皆外国人になってしまってある種の畏怖を感じ、日本人だけの乗客ならみんな無防備に居眠りしていられるのにそういう弛緩した感じが存在しないと嘆き、昨年決定された「出入国管理法改正案」という移民法のもたらす緊張に耐えられなくなった日本の都市住民による暴発が起きないかとか、ごく小さなきっかけから過大に増幅された異和の感情が、非日本人に対する暴力的な行動を誘発しないかと案じている文章に、愕然としてしまいました。

 うちのような小さな個人体験に遠い国からはるばる来てくれるゲストも来るまでどんなに不安があるかと思うし、迎える私もぎりぎりまでうまくいくか悩んでいます。それでも何とか続けていこうと思うのは、こういう葛藤や違和感、緊張に耐えられ、先に進んでいく能力こそがこれから必要とされていくものだと実感しているからです。ノーベル化学賞の吉野彰さんが、社会や産業を大きく変える研究や開発ができる要因を感じ取れるかどうかは感受性の問題で、それにずば抜けて得意な科目、将来自分の武器になるものを持ちつつ、全然関係ない分野も含めて広く関心を持ち続け一般教養を身につけていくと、自分の得意分野の中で誰も考えつかなかいような独創的なアイディアに結び付いていくと言っています。環境汚染など様々な問題を解決できるのも独創的な考え方や研究、粘り強さであるのなら、私たちはそれを伸ばしていくようにいかなければならないのでしょう。二十代、三十代のゲストは最近真っ向勝負で質問したり、話しかけてきます。日本語でも難しいのに英語となったらもっと大変で相変わらずおたおたしていますが、もっと外国語上達させるため、異国人の想い人を作ろうかと真剣に思い始めました。(馬鹿なこと言うんじゃないと、夫は一笑に付しておりますが…)