魂のネットワーク

 このところ食欲もあり、意識もはっきりしていた母の血圧が急に下がってきて、モニターを付けられ、その数字の上がり下がりにハラハラしながら昨日は病室にいましたが、何かあったら夜間でも呼び出しますよと看護師さんに言われて家に帰りました。金土と仕事があるし主人も楽しみにしているゴルフがあるので、何とかあと少し頑張ってほしいと思って今日病院行きましたら血圧も安定して時々話したりでき、あとは食べてくれたらよいのですがと言われ少しほっとしました。その後老健という施設に空きが出来たので、家族面接にいってほしいとの連絡を受け、この危うい時期にあんなに探していた次の施設が簡単に決まってしまうのかと、少しびっくりしています。とにかくひとつづつクリアしていかなければなりません。

 ずっと病室にいるので、前に作った村上春樹のレジュメのファイルを読んでいたのですが、小説の作り方のところに魂のネットワークという言葉があって、ひどく心動かされました。

「人間はそれぞれに自分が主人公の複雑な物語を魂の中に持っている。それを本当の物語にするには相対化する必要がある。小説家がやるのはそのモデルを提供すること。そして魂のネットワークを作りたいのだ。僕の物語とあなたの物語が共鳴する。それでネットワークができて物語が相対化され、奥行きや深みが生まれる。それが物語の力です。

 表面は現実だが、その底には非現実がある。頭と意識が別々に動いている話。出来事を追うのではなく、意識の流れの中で出来事をばらばらにして乗っけて行った。

 何かに導かれ何かを体験し、より自分が大きくなっていくという感覚。

 人と人は真につながれるのか?という問いがある。人間と人間のつながりに強い関心、共感を持つようになった。」

 村上春樹が彼の小説「騎士団長殺し」で主人公を肖像画画家にして、いろいろな絵を描く場面を書いているのですが、今まで着物のことでつながってきた沢山の日本人外国人のつながりを何らかの形で作っていきたい、それは単なる着物体験でなく着物という媒介を通して、何らかの物語が互いに出来ていくのではないか、私も触発されここまで来たように、着物体験をした人たちの内面の声をもう一つ聞きたいと思い始めています。

 着物たちが持っているいろんな物語と、着てくれる人たちが持っているいろいろな物語、それを媒介として感じている私。これから来るであろう新しいゲストは今までのように着物着て綺麗だだけで満足できない気がしてきています。頭の中に、何かの取っ掛かりが出来て来たようです。