ボーダーを超えて

 母の施設に行ったり認知症の義母に追われているうちに、あっという間に三が日が過ぎました。元日は子供たちが来て酒盛り、義母の認知症もこういう時にはありがたく、悪口言うのも忘れてしまって黙々とおせち料理食べているので、久しぶりに娘婿や子供たちとしゃべりまくりました。義父が生きていた時はお正月の支度はほんとうに大変でしたが、最近くるお客様や子供たちまでもがおせちは絶賛してくれるので、あれだけうるさくチェックされてきたことを有難く懐かしく思い出します。

 長女が元旦の新聞に着物仕立て屋としてキサブローさんの記事が大きく出ていると教えてくれて早速見てびっくり、素顔は一重瞼のほっそりした純日本的なお嬢さんなのですが、意表を突いたメイクして自作の袴や着物羽織ってポージングした写真がならび、ウールやポリエステルなどの素材も多用して、男女の性別も問わない斬新な発想で和洋折衷の新たな表現に取り組んでいるそうです。娘が最近キサブローさんと一緒にいる機会があるようで、仕事に貪欲でアクティブなのだけど時々物凄く怖がったり、意外な一面も持っているとか。

 1922年創業の岩本和裁の三代目として、業界で革新的だった初代・岩本喜三郎の名を2015年に受け継いだ彼女は、着物のアイデンティティとは何かを常に考えていて、和洋もジェンダーも国境も超えて既成概念を解き放つのが目標で「針と布があればどこへでも行ける、世界中の生地を着物に仕立てたい」と言っています。

 暮れからいろいろテレビ見ていて、紅白歌合戦も最近の若者がたくさん出てきてアニメソングや、動画サイトで大人気のグループとか初見のものが多く、でも草食系が多いなあと思ってみていたら、深夜にOne ok Rockというグーループの海外公演密着テレビをやっていて、世界中でコンサート開いていて外国人が熱狂しているのに驚きました。そして彼らは心から自分たちのパフォーマンスを楽しんでいるのです。

 日経新聞に連載中の小説が伊集院静さんの「ミチクサ先生」というもので、若き日の夏目漱石と正岡子規の心温まる交流を描いているのですが、漱石が子規の文集(七草集)を読んで手紙で感想を送ったところがあり、「着飾ってばかりの文体はダメだ、大切なのは”Originar(独自)"の"Idea(思想)"がなくてはいけない」と言っていて、漱石は子規に説教している・・すごーいと思いながらはっとしたのは、冒頭のキサブローさんの着物理念もそうだし、村上春樹の小説「騎士団長殺し」のテーマもイデアだった、one ok rockが世界で勝負できるのも若い彼らがオリジナルのイデアを持っているからなのかもしれません。

 

 着物が売れず、業界も個性を持たないとやっていけない時代に、キサブローさんはアイデンティティを探して切り込んでいます。年とった私の感覚は彼女についていけないところも沢山あるのですが、うちに寄せられて来ている着物たちを違う感覚で見直していくことが今必要なのでしょう。