オー ソレ ミオ O sole mio

 ピンキーとキラーズのようなポーズをしたMaria Sole(これが名前)は180センチある大柄なイタリア人の女の子で、一回り小さいフィアンセのDanとベルリンに住んでいます。小さい頃からの夢は振袖を着ること、フィレンツェで日本語を勉強し七年前にも一度日本にきたとか、話しかけるとまず笑顔を作る優しい綺麗な彼女の今の髪形はなんとベリーショート!ダンもほぼ坊主(こちらは髪がないとか)、主人が今日はいないので着付けの助っ人さんと180センチの彼女に何を着せるか悩んでいたのですが、この髪型に着物は着せられるのかしら、髪飾りはどうしよう、と私はパニックになってしまいました。バストも豊かなのでとにかく着られるものをと、伝家の宝刀、娘の黒の手描き振袖を着てもらい、もう一人の女性ゲスト、シンガポールのMAKIちゃんは普通サイズなので赤い振袖を選び、長身の彼氏のゴンザーロにはいつものトールサイズの着物を着せ、写真をたくさん撮りました。ゴンちゃんはイタリア人とばかり思っていたら、両親はスペイン人だけどイタリアで育ち、今はMAKIちゃんとロンドンに住んでいて、スペイン語、イタリア語、英語を話すので、私の頭はこんがらがりっぱなしでした。

 スペイン語とイタリア語は似ていると最近気が付き、スペイン人のブランカやカルメンにスペイン語の文法を叩き込まれたことは無駄ではなかったし、柴又へ行く電車の中でもいろんな言葉ちゃんぽんにしてみんなで話していて本当に楽しく、異文化交流は必要だとつくづく思い知らされました。マリアも念願の振袖着て成人の日で賑わう参道歩きながら、通りすがりの酔った男性に思いっきり褒められたり、お守り売り場のなじみのおじさんに声かけられ日本語で話し込んだり、振袖姿の若いお嬢さんたちに交じって、ちょっと遅い成人のお祝いを本当に楽しんでくれました。参道のお店でハンコ見つけ、自分の名前のSole(太陽)のハンコを探しているので、聞いたら彼女の名前はマリア・太陽、だから道すがら歌の話をしていた時「オーソレミオ」を歌ってくれたのです。

 私もそうだけれど、規格以上に大きいからだだといろいろ生きにくいところもあって、普通サイズのMAKIちゃんとはちょっと違うニュアンスがあるし、神経質でめんどくさいとこがあるフィアンセのダンとも何とかうまく付き合っているようですが、見ているものがちょっとちがう、日本文学も好きだというし、すぐとトイレに行くダンの居ない時も、言語に対し好奇心の旺盛なゴンちゃんたちと話し込んだり、器の大きい女性でした。草団子とみたらし団子と芋羊羹(ダンのリクエストです)を買って、早めに帰り、ティーセレモニーをしましたが、彼らはエアビーの体験で書道はしたけれど茶道はやらなかったそうで、いつも説明する主人がまだ帰らないので、レジュメのペーパー見たりしながら真剣にお茶を飲んでいました。姑がデイサービスから帰ってくる前に、ダンちゃんとゴンちゃんにデニム着物を着せ、ベルトしてハット被って木刀持たせて遊んでもらっていたら、いつの間にかマリアが黒振袖に黒ハット被って、ポーズとっているのにびっくり、それが超かっこいいのです。振袖にハットねえ。顔が小さく長身のマリアだからできるのかもしれません。

 夜遅く娘に電話して成人式の着付けの様子を聞いたら、ずっとたくさんの振袖着付けをやってきて、正直20歳の女の子の振袖姿は何をどう工夫してもインパクトがないというのです。私も帝釈様でたくさんの女の子の振袖姿見たのですが、みな同じに見えてしまうし、ずいぶん前にミス調布の20代後半の女の子たちにうちにある古い振袖を着せて三人並んだ時、みなとても個性があって素敵だったのを思い出しました。今まで私も何回か成人式の着付けしたことがあるけれど、異様に濃いメイクをして髪に生花つけて、出かけて夕方帰ってきても着物を着た感想も情緒もなかったりして、不完全燃焼で終わることが多かったので、マリアたちと過ごした時間はかけがえのないものでした。マリアは少し前まではロングヘアだったそうで、浴衣着た写メを見せてもらいましたがいたって普通にきれいで、今ベルリンではやっているというベリーショートの髪だからこそこんなにも個性的でかっこいいのかと思います。着物を着る資格というのは着物に対する敬意と愛情、そして知性と品格ではないかと思った今日の成人式でした。