満面の笑み

 日本人の方の着付けもずいぶんしていますが、外国の方と比べて余り表情を表さないような気がしていました。でも、先だって何年か日本で勉強していて近々ベトナムへ帰るお友達に想い出に振袖を着せてあげようということで予約して下さったこちらの女性は日本人で次女と同い年なのですが、いらしたときから明るく開放的なオーラがあり、氏素性がわからないまま着付けていたら、なんと去年結婚した旦那様はネパール人でお母様はネパールで日本語学校を開いているとのこと、日本とネパールを行ったり来たりしている国際女性なのでした。日本語の達者なベトナム女性チンさんは恥ずかしいと言いつつ柴又を振袖でたのしみ、満面の笑みの写真をたくさん撮って、ティーセレモニーもして、はしゃぎながら帰って行きました。ベトナムもネパールも仏教国なのでいろいろお寺も多いでしょうが、帝釈天の佇まいや彫刻を見て喜んでくれましたし、この次は日本語の堪能なネパールのお姑さんと来たいとのこと、色々な話を聞くことが出来そうで本当に楽しみです。

 このゲストたちの体験はとてもやりやすかったのですが、そのあと雪が降りそうな寒い日に訪れた長身スレンダー綺麗な28歳の二人のアメリカ女性には苦戦しました。二人ともドクターで医者家系らしいのですが、頭脳明晰なのはわかるけれど言うことやること無駄がなく取っ掛かりがないので、話ややることがすぐ終わってしまうのです。180センチの女性には挽茶色の小紋、175センチの女性には紺の菊の訪問着を着せ、柴又へ行きましたが、寒いせいもあって静かだし、いろいろなものにもほとんど関心示さず、お饅頭やお団子、今川焼買って早々に帰り、ティーセレモニーをやったら早く着物を脱ぎたいと言われ、プレゼントの羽織(ちょうど富山の知り合いからたくさん送られてきたのです)にも無反応で、三十分早くあっという間に帰りました。

 いつも仏教の話やアニメの話などで盛り上がるのですが、夫曰くアニメ見ていたら医者にはなれないそうで、無駄なく絶え間なく勉強し続けたであろう彼女たちには余計な逡巡や迷いなどなく、私の体験でも着物を着てみるだけでよかったのかもしれません。余計なことしたのかなと何となく暗くなりながら片付けて、悪いレビュー久しぶりにもらうかレビューなしか覚悟していましたが、夜連名で楽しかったとメールが届き、あまり深くどうこう考えなかったのかもしれないという気もしました。180センチの女性の目の中に”nothing”というか、空虚な光を時々感じていたのですが、それが彼女の本来の姿なのかもしれず、だから彼女はドクターなのかもしれません。しかし、今までで一番苦戦した寒い一日でした。