再びカズオ・イシグロさんの日の名残り

一昨日昼の映画番組を何気なく見たら、なんとカズオ・イシグロさんの「日の名残り」をやっていて、慌てて録画して夜じっくり見ました。彼がノーベル文学賞を取った時、この本の英語版日本語版を買ったのですが、悲しいことにどちらも文章がどうしても頭に入ってこないで読めないのです。イギリス好きの主人はあっさり日本語版読み、面白かったと言っているのですが、焦っても頑張ってもどうしても前に進めません。そのあとリピーターで来たインドネシアの男性は本も映画も素晴らしかったと言っていたのですが、今回映画を見て、やっとイシグロさんの世界が体の中に入ってきました。イギリスの豪華な貴族の館、それを完璧に取り仕切る執事の働きぶり、アンソニーホプキンスの名演でリアルにその頃の生活の風景がよみがえっていて、日の名残りの文章が映像として感覚としてやっとわかりました。海外に出ることもなく、いつも想像のみで暮らしている私にとってこういう優れた品格のある映画はありがたいし、原作と映画はずいぶん違っているので裏話が満載されたサイトを読んでみるとびっくりする事柄ばかりなのですが、改めて日本語が話せない日本人のイシグロさんが日本人の感性も持ちつつ、イギリスの本質、美しさ品格を感じ考えに表現していることを追体験できることが面白いし嬉しいのです。

 しかし、執事さんが運転していた車が原作と違うとか、新しい館の主人のモデルはJFケネディだとか、実は執事さんは同性愛だったからメイド頭の愛を受け入れなかったとか、これはイシグロさんのイギリスに対する痛烈なパロディだとか、いろいろ書き連ねたサイトもありました。ノーベル賞作家が書いたノスタルジックで品格に満ちた重厚な小説と思っていたし実際そうなのでしょうが、映画を見てサイト見て、そして純粋な日本人で英語が母国語、日本語話せないというイシグロさんのアイデンティティーとか思考回路、感情の原点は何だろうと考えると、私は面白くてわくわくしてしまいます。カオスの世の中を解き明かすことが出来るのは、カオスの精神なのかもしれません。