カズ・ヒロさん

 昨日の夜、たまたま特殊メイクアップアーティストのカズヒロさんのテレビを見ていて、二回アカデミー賞を受賞した日本人だぐらいしか知識がなかったのが、最近のオードリーヘップバーンの作品作りの過程などを知り、細部へのこだわりや芸術性、その考え方などにいたく感銘を受け、これは職人さんの領域なのかしらと思って、今朝ネットで経歴など調べてみました。

 まず「とにかく今までけなされ続けてきた」という彼の言葉が気になりました。京都に生まれ、小学校の時見たスターウォーズで映画に興味を持ち、高校になってたまたま洋書店で買った映画雑誌で、ディック・スミスによる映画リンカーンの大統領の特殊メイクを見たことがきっかけでこの道を志し、半端でない行動力を発揮していくのです。自分の顔にリンカーンのメイクをしてその写真をディック・スミスに送り、しばらく文通して特殊メイクの勉強の仕方を聞いたのですが、良い学校はないから独学が一番と言われ、日本でいろいろ勉強した後渡米、27歳で兄弟子のリックベイカーのスタジオで働きだし、猿の惑星やグリンチなどを制作したそうです。その後アメリカで活躍し沢山の映画を作ったのですが、オファーを受けて指示に従って仕事をすることや、ハリウッドの金こそがすべてという思想に嫌気がさし、現代美術に転向しました。でも彼にやってもらいたいという俳優からの熱烈なオファーがあり、また映画界に復帰し優れた作品を作り出しています。細部へのこだわりや技術を極め納得するまでとことんやり続ける姿勢、対象とする人物への愛情というかまなざしというか、相手を理解しようとする没入の仕方が半端ではないのです。

 ヘップバーンの若い時と晩年の二つの顔の彫像をなぜ作るのか。自分を表現するということは自分が消え去るまで、自分という意識など関係なくなるまで対象物に没入することで、ただ相手を表現する技術を尽くす器としての自分は存在していなくてはならない、それができる場所を探して、彼はアメリカ国籍になりました。

 「日本人は、日本人ということにこだわりすぎて、個人のアイデンティティが確立していない。だからなかなか進歩しない。そこから抜け出せない。一番大事なのは、個人としてどんな存在なのか、何をやっているのかということ。その理由もあって、日本国籍を捨てるのがいいかなと思ったんです。(自分が)やりたいことがあるなら、それをやる上で何かに拘束される理由はないんです」

「日本の教育と社会が、古い考えをなくならせないようになっているんです。それに、日本人は集団意識が強い。その中で当てはまるように生きていっているので、古い考えにコントロールされていて、それを取り外せない。歳を取った人の頑固な考えとか、全部引き継いでいて、そこを完全に変えないと、どんどんダメになってしまう。人に対する優しさや労りとかは、もちろん、あるんですけど、周囲の目を気にして、その理由で行動する人が多いことが問題で、自分が大事だと思うことのために自分がどんどん進んで行く人がいないといけない」

 最近夫と、カズオ・イシグロさんはその作品で一体何を言いたいのだろうということを話しているのですが、テーマや題材の選択の理由は何なのか、日本人の両親のもとに生まれながら英国で生まれ育ち、日本語が話せないということが彼のアイデンティティにどんな影響を与えているのでしょう。カズ・ヒロさんのいう日本社会の縛りからは解き放たれている。不思議なのがカズオ・イシグロさんは私と同じ年で65歳、カズ・ヒロさんは15歳若くて50歳なのですが、なぜかもっと年上に思えるのは、日本で受けた何らかの束縛の大きさのせいなのでしょうか。でもそれは彼がより強くなるための起爆剤になったのだし、その持っている技術、スキル、情熱、そして人間に対する愛情の深さが表現するためのエネルギーとなって、これからの世の中を新しく作りだす源になっていくような気がしています。

 エアビーもしばらくストップしそうです。動けない時には動かないでやることがたくさんあります。これまでのゲストの感情のひだを感じなおしていきたいと思っています。