個性の輪郭

 義母が二回目のデイサービスに出かけたので、家の中は静かです。朝起きて仏壇の花の水を替え、お茶を差し上げてお線香をともし、それから神棚のお榊の水を替え柏手を打ってお参りをしてから、静かに雨の音を聞いていました。

 桜は今真っ盛り、自分たちのために咲き誇り、そして冷たい雨に打たれて散っていきます。

 

 突然危険な病気が発生し、みんなを苦しめている、私たちは被害者だ、どうにかしてくれということではないのです。

 共通祖先は紀元前8000年前という長い歴史を持つウィルスはこれまで姿を変えて動物や鳥の中に潜り込んで子孫を残してきました。鳥の体の中に入り込んだウィルスは空を飛んで世界中にフンと一緒にばら撒かれ鳥もたくさん死にましたが宿主を殺してはウィルスも共倒れになるので、平和共存を目指して共に生きてきたのです。40億年を生き抜いてきたウィルスに対し、20万年生きて来た私たちは過去に繰り返されてきた感染症の大流行から生き残った「幸運な先祖」を持つ子孫であり、医学の発達や栄養の向上など様々な対抗手段により感染症と戦ってきたのですが、人間の際限もない欲望がきっかけで蝙蝠を食べた中国人の体内で新型コロナウィルスが作られ人間が作り出した過密社会の中で増殖しあっという間に広がっていきました。感染症は環境の変化から流行するといいますが、人間の作り出した過密社会は熱帯雨林破壊、環境汚染、地球温暖化などの弊害も含み、なるべくして感染拡大を引き起こしているのでしょう。

 マスクがないとか騒ぎ立てるテレビを見ないでいろいろ調べていると、同じ生物体として生き抜いてきたウィルスと共存してwinwinでいるためには、人間が犯してきた罪の重さにまず気が付き、粛正していかなければならない、共に生きていくのであればよりよく相手のことについて知った上で、時空を超えてではありませんが歴史も成り立ちも自然界の秩序もよく知り、新参者の人間がどれだけいけないことをし続けているかよく反省し、悟らなければなりません。

 風邪をひいてくしゃみが出、痰、鼻水、のどが痛む、これはウィルスを排除するための免疫反応の結果であり、自分で自分を守るための自己防衛反応ともいえるし、発熱で体温をあげてウィルスの活動を抑え、鼻づまりでさらなる異物の侵入を防ぎ、鼻汁とくしゃみと咳で異物を体外に排除しようとしているのです。その自浄作用を薬で抑え込もうとすること自体ナンセンスだし、結局儲けようとする浅ましい考えが自分の首を絞めていく、インフルエンザの予防注射しても新たなウィルスが出てくれば効かないし、余計なものを体内に蓄積し続ければ自浄作用さえ消えてしまう。今回のこの危機は、我々が自分たちでつくりだしたものにほかなりません。

 

 ずっと雪が降っています。買いだめに走り、ストレスがたまると外へ出たがる人達はこの雪の中でもおなじことをするのかしら。天はきちんと諫めてくれます。私たちは謙虚でなければならない、生きとし生けるものすべてに対して、害を与えてはいけない。この危機に対しても、あらゆることを考え、いかなる努力も惜しまず、辛抱して一歩ずつ進みまなければならないのだと思います。生き残りたいウィルスは敵ではない、このきっかけを作ったのは人間の方ではないですか。史上最強の人類の唯一の天敵ウィルスは40億年を生き抜いてきた強者です。これまでも知られないままに、多くの地域集団が絶滅させられたことでしょう。でもこれは単なるメタファーのような気がします。襲ってきているのは人間の邪悪なのかもしれません。

 ふと気が付いたのですが、帝釈様の板本尊に書かれてある経文が、「この経はこれ閻浮提(仏教で全世界のこと)の人の病の良薬なり、もし人病あらんに、この経を聞くことを得ば、病即ち消滅して不老不死ならん」であり、右手に剣を持ち、左手を開いた忿怒の相をあらわした帝釈天がもう一方の面に彫り付けられているのです。これは除病延寿の本尊、悪魔降伏の尊形で、帝釈天はもとはインドのバラモン教の神で、雷神であり、武勇神である力の強い神様です。仏教に取り容れられて仏法守護の神となったのですが、「仏の教えを信仰してこれに従う者に対して、その人にもし災難が降りかかることがあれば、仏法守護の神である帝釈天が必ず出現して、この悪魔を除き退散させる」ということで、その頃飢饉や疫病が蔓延して悲惨な状況だったのですが、災難に遭った人々を救うため、その時の日敬上人が板本尊を背負って江戸の町に出ては人々に拝ませて、不思議な御利益を授けたということなのです。飢饉の後の疫病の発生、飢饉は富裕層には影響ないけれど、疫病はすべての人々にかかわってくる、今も昔もあったのだとすると、これは何なのかしらと考えがまた戻ってしまいます。気が滅入ってしまったところに娘からひで也工房の浴衣の端切れを使ったマスクの写メが届きました。可愛い!浴衣とおそろいにしたらどうなのかしら?