Wedding Anniversary

 四月二十日が私たちの結婚記念日で、今年で四十年、ルビー婚だそうです。株が全くダメで懐が苦しい夫は今年は何もできないと嘆いていましたが、(後でチリのカヴァを買ってきました)私は八街の落花生をプレゼント、まあ今はこんなものです。破れ鍋にとじぶたの私たちですが、エアビーの仕事を始めたころから夫の存在が有難くて、私だけではここまでやってこられなかったし、何より変人の私をよくここまで許容してくれると感謝しています。夫も友達から変わっていると言われているようですが、このコロナ危機のさなかでも健全な判断力を持っているようで、日ごとに薄くなり広告もほんのわずかになった今朝の日経新聞読んでいて、「永守さんは頭いいなあ」とつぶやいていました。今私はほとんど新聞を読まないようにしているのですが、永守重信氏のことは前に「炭鉱のカナリア」という題名のブログを書いたことがあり、この危機意識の強い経営者の今のコメントを知りたくて、心して読みました。

 どんなに経済が落ち込んでもリーマンショックの時は「会社のために働こう」と言い続けた。だが今回は自分と家族を守り、それから会社だと思うし、12万人以上従業員もいて、人命についてこれほど真剣に考えたことはない。

 新型コロナの猛威に多くの企業は立ちすくんでいて、今は見えない敵と戦う第三次世界大戦で、40か国以上に工場があり様々な情報が錯綜する今、指揮官の私が全貌を把握し、全て決める体制にした。リーマンショックの時は中国が世界経済の回復を引っ張ったが、今回は経済的にも政治的にもリーダー役の国がいない。コロナ終息後は全く違った景色になるし、テレワークをどんどん取り入れる劇的変化が起きるだろう。経営者は利益を追求するだけでなく、自然と共存する考え方に変えるべきだし、地球温暖化がウィルス感染に影響を及ぼすとの説もあることを知って、自然に逆らう経営はいけないと戒められた。

 50年、自分の手法がすべて正しいと思って経営してきたけれど、今回それは間違ってきた。社員が幸せを感じる働きやすい会社を作らなければならない。

 

 オーストラリアからのゲストが続いていた時、ちょうど大きな山火事でコアラや沢山の動物が焼け死んでいるニュースについて尋ねたことを思いだしました。炎の中で苦しみながら焼け死んだコアラたち。地球温暖化をはじめ様々な弊害を与え続けてきた人間たちにたいし、もう見るに見かねて、限界を超えた何かが動いたのでしょう。皮肉なもので、経済優先でいくら利益を上げても一歩も外へ出られないこの状態ならばどうにもならないのです。テレビやマスコミが何をわめこうが、もしこう事態にならなければ、人間はもっともっと恐ろしい罪を重ね続けたでしょう。それでも私たちはいま、衣食住には不自由していない。そして今までより澄んだ空気も感じています。家にずっといるけれどかえって健康になったとフィンランドに帰ったゲストがメールで知らせてきました。

 手塚治虫の漫画ブッダに出ていた話、貧しい水売りの家に育った少年が嫌気がさして家出し、町に出て商売をはじめ成功したけれどもっともっと稼ぎたくて競争して拡張したら、火事を起こし街全体が燃えてしまった、家に帰ると水売りの家は水をかけたことで燃えずに残っていて、みんな元気だったというエピソードを思いだしました。

 永守氏の記事を読んで炭鉱のカナリアというブログ書いたのがちょうど一年前、きな臭い匂いが漂っていて切羽詰まってきていると思っていたことが事実になった今、私たちの心は平静です。夫は、近い親戚に汚い手を使って定年後の職を奪い取られた時も悪口を言いふらされた時も、冷静に受け止められる精神力を持っていて、だからこの非常事態でも冷静に他人に思いやりを持ちつつささやかに幸せを感じて生きていけるのだし、私も一緒にいて楽です。それに引き換え悪の限りを尽くしてきた人間が感じるコロナウィルスに対する恐怖は、人一倍恐ろしいものなのかもしれません。

 落花生を食べ、寒いから松竹梅の日本酒にお燗付けて呑んで「ああうまい」と言っている夫は幸せです。

 さあ私はもう少し頑張って、世界中にメールを出し続けましょう。