人間の土地   Human land

 昨日は久しぶりに新宿のデパートへ行き、用事を済ませ仕事中の娘と会ってきました。ほとんどの人々はマスクをしているし、すべてが整然と管理され、食品売り場や衣料フロアも少しずつにぎわいを取り戻していますが、呉服関係のフロアはやはり厳しく、可愛い素敵な浴衣が飾られていても、花火も盆踊りもないし、買おうという人はなかなかいないようです。ひで也工房の浴衣着てフロアにいた娘はわりと大柄だしそこに近寄っていく私も大きいので、近くの売り場にいた社員さんが親子とわかったようで、マスクしていてもばれてしまいます。ステイホームで家に籠っていた時は自分の大きさを感じませんでしたが、最近外に出ると今更ですが「大きい!」と言われ、ここの所高身長の外国人と一緒にいることが多かったので私は普通サイズと思い込んでいたのですが、コロナで外国人の姿を見かけることが少なくなると、すぐさま大きさが目立ちます。小柄で可愛らしいタイプだったらどんなに良かったかと思っても仕方ないのですが、地下売り場でジェラートを食べながら買い物客見ていると結構ふっくらしている人も多く、大きくても高品質の素敵な浴衣を着こなせるというコンセプトを大きな私たちは身を持って追求した方が良いのだろうと思ってきました。

 最近お取り寄せでいろいろ細かく注文できるようになってきたので、デパート行っていろいろ探し回っても品不足だったりして、歩き回って疲れたわりには気に入ったものが買えず、オンラインとかリモートとかよくわからないけれどそういう面できちんと管理できれば特に高齢者は買い物が助かるし、より幅広い商品の選択肢が増えるのかもしれません。特に海外はいまだコロナの感染者数が増えているし、日本に来ること自体厳しいのであれば、日本が大好きで来たくてたまらない外国人に対してのメッセージなり、働きかけを個人的に工夫してしていくことをしていこうと思います。七月に予約してきていたアメリカの親子が今朝キャンセルしてきました。それはそうでしょう。東京はまた感染者が増えていますもの。

 星の王子さまの作者サン・テグジュベリの「人間の土地」という本を斎藤孝さんが「理想の国語教科書」で紹介していて、小学校3年から読んでほしいという名著なのですが、郵便物を運ぶ飛行士の彼がアルゼンチンにおける最初の自分の夜間飛行の晩の景観を思いだして、平野のそこここに灯ばかりが輝く、見渡す限り一面の大海原の中にも、人間の心という奇蹟が存在していることを強く感じていて、そういう中で自分が努めなければならないのは自分を完成することで、試みなければならないのは山野の間にぽつりぽつりと光っているあの灯たちと、心を通じ合う事。人間であるということは、とりもなおさず責任を持つということだし、自分と関係ないと思われるような不幸な出来事に対しても恥じることだと言います。サン・テグジュペリにとって飛行機とは、人間としての自分を耕すための道具だし、人は仕事を通して、あるいは習練した道具を通して自分自身を鍛えていくといいます。飛行機から見る広い世界を見ながら、その土地を人間の土地と呼ぶならば、人間はそれに対して責任を持たなければならない。

 サン・テグジュペリは1900年に生まれ、1944年にナチス戦闘機に撃墜され地中海上空に散り、星となりました。「本当に大切なものは目にみえないんだ」星の王子様の有名なフレーズですが、彼の生きていたのは100年以上前の話なのだけれど、いまに通じる気持ちがたくさんあるし、なんだか100年たっても人間は進歩していない気がします。いろいろなことが不安でたまらない現在ですが、人間にとって恐ろしいのは未知の事柄だけで、それに向かって挑みかかればもう未知ではない、そして怖くはないのなら、ただ渦中へ入り込み、突き進んでいけばいいのでしょう。大事なことは優れた意志を持っているかどうか、そしてそれを成就するだけの技能と忍耐力を持っているかどうかということです。結局もっとも偉大な技術とは、自分を限定し他から隔離するもの、しっかりと自分の活動をうまく限定し、全力をそこに注ぎ込む。

 イタリア人でフィンランドに住むGaetanoから、今朝彼の庭の花々の写真が20枚送られてきました。科学者の彼の仕事はどうなっているのかわかりませんが、私の心を癒すため綺麗な花を写している彼の気持ちは本当に嬉しいです。この不安な時代を送るのに、もう一つ大事なことは境界線や隔壁を越えて感情を伝えることだとカズオ・イシグロさんが言っていましたが、ゲストとして来た時娘さんの綺麗な着物姿に感動した彼が、庭の綺麗な花々の写真で私を感動させてくれる、その積み重ねの中で気持ちをしっかり平静に保ち、あらたな物語を紡いでいくよすがとする。一対一がすべての基本だし、そして何より私たち人類は、地球に対して、世界に対して、その土地に対してみんなが責任を持たなければならないのです。フィンランドには行けないけれど、今こんな花が咲き乱れているのです。