I am Infinity

 三月の半ばに三人のゲストが来て以来、四か月ぶりに日本のインターンシップで働いているドイツの女の子が二人着物体験に来てくれました。本当に久しぶりで、掃除したり着物を揃えたり直前まであたふたしていました。二人とも170センチの長身で、着物を着るのが小さいからの夢だったとあったので、振袖を着て写真撮ってから、浴衣に着替えて柴又へ出掛けました。コロナ以後お寺もお店も閉まるのが早くて、四時半過ぎると静かな柴又ですが、リクエストのアイス草団子を食べてうちへ帰ってからは恒例の”おみやげタイム”、自粛期間中も着物や羽織頂いていて、これからゲスト来るかもわからないので、欲しいというものを色々持って行ってもらいました。黒い紋付きの羽織は空手をやっていたというニーナがカッコよく羽織り、ピンクの好きなステファニーは長襦袢やピンクの朝顔が咲き乱れているブルーの浴衣に博多織の半幅帯が気に入って、ドイツのハンブルクで浴衣を着る機会があるというからニーナにも紺地の浴衣と帯をあげて、着物を入れた袋を持って帰る時、彼女たちは「泣きそう」と言って嬉しそうに帰って行きました。二人とも日本語が達者で、とても楽だったのですが、初めはあまりテンションが高くなかったステファニーが、最後にはコロナで禁じられているハグをしそうになるくらい、心から話せたのです。日本でホームステイもしたし、京都に何か月も住んでいたから日本には慣れているのでしょうが、振袖着て浴衣着て写真撮ってティーセレモニーして柴又行ってスイーツ食べて、帰ってきておみやげに着物を差し上げるというパターンはかなり意外だったようでした。

 エアビーアンドビーで外国人が旅行できる日がいつ来るかわからないと覚悟しているので、これから何人ゲスト来るかわからないと思えば、今来ているゲストが必要なものはなるべく持って行ってもらって、自分達できるなり身内にプレゼントして使ってもらうなりしてほしい、それの方が着物が喜ぶといつも思っています。

 コロナ以後初めてゲストが来て、掃除し消毒しマスク付けいろいろ気を付けてやってみましたが、ほんとうに今までの既成の概念が崩れ去り、これからは本当に大事なものしか残らないとつくづく感じています。私がこういう体験をやっているとか、どう感じてくれたかという事が今まで大事でしたが、これから私を通してやらなければならないことを、なにか永遠であり無限であると思えることを形にしていかなければならない気がしています。日本に興味を持ち、学び吸収しようとしている彼女たちは優秀だし、素直で貪欲でした。振袖を着せ、抹茶を点ててもらい二階の和室の仏壇や鎧兜、掛軸を見てもらう、仏壇の前に正座してお線香をあげ、鉦を叩いて手を合わせる、刀を持ってポーズを取り、弓を持って構える、さわりだけなのですが、うちにあるものでできることは何でもやってもらったし、着物にしてもこの着物のここに心惹かれてという所が明確である、何にも知らないと言いつつ自国や祖先の文化伝統を秘めている上で、日本を見ているその構造の複雑さに私はあらためて驚いています。

 世界の各地を旅行しているステファニーに、世界中からゲストが来ていいですねえと言われた時、私が世界中行くことより、世界中から私のところへゲストが来ることの方が稀有なことだったことに気が付きました。

 日本人であっても着物のことを知らない人が多いし、成人式や卒業式にみんなと同じように着物を着ることのみに精力を傾けている姿はどこか違うし、自分らしくありたいとも思っていないことが不思議なのです。着物のもつ意味を問いかけ話し合える相手は今の私にとっては外国人と娘たちのような気がしています。そこを起点として努力していけばグローバルで無限の世界がつながっていけるのかもしれない、私たちは全く未知の世界へ進んで行っています。