橋づくし  The seven bridges

 一度も着てもらったことのない着物に意味を持たせるにはどうしたらよいか寝ながらずっと考えて居て、ふと文学作品に出てくる着物として考えたらいいのではないかと気が付き、久しぶりに最近読んでいなかった着物の出てくる小説やエッセ=を本棚から持ってきて、積み上げて読んでみました。幸田文さんは若い頃大好きで、娘さんの青木玉さんやお孫さんの青木奈緒さんの作品もよく読みましたが、法政大学学長の田中優子さん、立松和平さんの染織紀行も面白く読みながら、今気になっている白地に橋の模様が書かれた小紋をどう意味づけようか考えて居ました。とてもシンプルで素敵なのですが外国人のゲストに好まれそうな柄ではないし、日本のお客様も今まで着なかったしこれから着てもらうあてもないしと悩んでいたら、ふと三島由紀夫の「橋づくし」という小説を思い出しました。陰暦の8月15日の満月(中秋の名月)の夜、料亭の娘と芸妓二人と女中さんが深夜、無言で後戻りすることなく、7つの橋を渡って祈って願をかけるというストーリーですが、結局願をかけられたのは若い女中さんだけで後の三人は脱落してしまいます。三島由紀夫の短編の中では一番好きで、秋草のちじみの浴衣や黒塗りの下駄に足の爪紅の描写がいまだに印象深く私の中に残っていて、ゲストの女性の足のマニュキア見ると、はっとしてしまいます。

 うちにある橋の柄の着物は袷で十月以降着るものだから、「橋づくし」の女性たちが着るものではないけれど、橋そのものを着物があらわし、女性たちは色違いの博多帯でそばに置くというコンセプトにしてみました。人が着なくても良いのかもしれない、それほど着物たちの力は強い様です。