自分の個性を確立せよ  Establish your own personality

 気候が涼しくなり夜よく寝られるようになったのはいいのですが、夜中の二時ごろから目が覚めてしまい、ユーチューブで古い時代のショパンコンクールを見ていました。日本でも有名になったブーニンが19歳で優勝した時の聴衆の熱狂ぶりは凄かったし、それから日本でもブーニンブームが始まったのでしたが、今はどうしているのかと調べたら、なんと日本人と結婚して日本に暮らしていて、音楽活動もかなり地味のようですが、でも幸せそうでした。ロシアの名門音楽一家に生まれ優秀な教育を受けたブーニンが1985年にコンクールで優勝した時の映像では、かなり神経質で繊細な素顔が映し出されていましたが、旧ソ連の崩壊、新生ロシアの誕生という激動の時代を過ごしたブーニンさんが息子の日本の友達のバーベキューパーティーに突然現れたなんて言うエピソードを見つけて、人間の一生とは凄いものだと感じています。

 辻井伸行さんが17歳でショパンコンクールに挑戦した動画もあって、五年に一度開かれるコンクールに出場するのも大変だと思いながらいろいろ調べていたら、過去に優勝したマルタ・アルゲリッチが審査員をしていた時、クロアチアの22歳の青年が超個性的な演奏スタイルで巨大な魅力を持っているのに予選落ちをしたのに激高して、後の審査を放棄して帰国してしまったことがあったそうです。そしてしばらく一位がない時代が続き、2000年に中国のユンディ・リがブーニン以来の優勝をして、熱狂的な聴衆の喝さいを浴びた演奏を聴いたのですが、いつも中国人の先生がつきっきりで指導し優勝後のコメントも中国の解釈が認められたと喜んでいる姿見たり、ユンディが何をするにも先生に伺いを立てているのを見て、その心もとない顔つきに違和感を覚えました。三位になったイスラエルの青年は予選でかなり失敗していたのですが、演奏の中に何かをしっかり持っているタイプで見事三位入賞、いつも寄り添っていた真っ赤なワンピースを着たショートカットの婚約者と抱き合っていたのが印象的でした。

 キムタク似のイケメンピアニストとして売り出したユンディのその後をたどってみたらびっくり、期待していったら余りにひどいリサイタルだったので、二度と行きたくない!などのファンのコメントが続出しているのです。彼はピアノを弾きたくて弾いているわけではなかった・・

 1980年のコンクールでクロアチアのイーヴォ・ポゴレリッチが予選落ちしたのに納得できず、「だって彼は天才よ」といって審査員のアルゲリッチは怒って帰ってしまったのですが、彼はその後一躍脚光を浴び世界中で活躍するようになり、日本にも何回も来ていますがその型破りな演奏はいつもセンセーショナルだそうです。あるインタビュー記事で「どれほどの深さで自分の音楽がお客さんに届いているか、どれだけ心をつかんでいるか、どれだけ集中しているか、音楽家の使命とは、聞く人の心を刺激して、その中へ入っていくこと。各自が生まれつき持っているものと磨き直されて補充されてなお上に向かって行くものがないと、貯蔵されたものはいずれなくなってしまう。」と語っているのを読んで、ユンディは貯蔵したものがなくなってしまったんだと納得しました。

 今このコロナ禍の中で、また感染者数が海外で増えていたり、ワクチン開発競争が起こっていますが、「このワクチンを二回打てばコロナにかからない!どこの国の開発?65歳以上はワクチンは無料?」66歳の私はそれを本能的に怖い、危ないと思っています。トイレットペーパーがなくなるから買い占めようというのと一緒で、ワクチン無料だからたくさん打とう。そうしたら自分だけは生き残れる。でもどんな状態になるかわからない。まるで人体実験です。

 個性とは先生に言われた通りをやって、何も考えず頑張れば出てくるものではないのです。コロナで授業が遅れたから、夜遅くまで塾に通う、いい学校に入ったけれど授業がなくてリモートでつまらない、そんなことを言っている場合ではない気がします。危険を察知できる個性を持ち、一生かけて大事にし作り上げるものを持ち、受け取り手のことをいつも考えながら進んで行かないと、いつか海の中でおぼれてしまいます。辻井伸行さんは盲目だけれど、障害を個性として磨き上げてきたので、普通のピアニストがわからない感性やピアノの息遣い、作曲家の気持ちまで受け取れるようです。

 「日本人は、日本人ということにこだわりすぎて、個人のアイデンティティが確立していない。だからなかなか進歩しない。そこから抜け出せない。一番大事なのは、個人としてどんな存在なのか、何をやっているのかということ。」「日本の教育と社会が、古い考えをなくならせないようになっているんです。それに、日本人は集団意識が強い。その中で当てはまるように生きていっているので、古い考えにコントロールされていて、それを取り外せない。歳を取った人の頑固な考えとか、全部引き継いでいて、そこを完全に変えないと、どんどんダメになってしまう。人に対する優しさや労りとかは、もちろん、あるんですけど、周囲の目を気にして、その理由で行動する人が多いことが問題で、自分が大事だと思うことのために自分がどんどん進んで行く人がいないといけない。」アメリカ国籍を取り、メイクアップアーティストとして活躍するカズ・ヒロさんはこう言っていました。

 いま、そこでハーメルンの笛吹きが現れて笛を吹いています。ついていけばいいことがあるのかしら、みんなで行けば大丈夫。