ニュー シネマ パラダイス

 今はコロナで外国でのロケが出来ないので、NHKの語学番組もみなスタジオでオンラインで収録したりしています。昨日のイタリア語講座では、過去の傑作編としてバイオリニストの古澤巌さんが南イタリアのアマルフィの山の上に1人で住んでいるジェンマおばあちゃんを訪ね、素晴らしい景観の中で、子供も巣立ち夫も死んで一人で暮らしている彼女のために持参したバイオリンを弾くシーンを放映していました。映画の好きなおばあちゃんは古澤さんの弾く映画「ニューシネマパラダイス」の主題曲を聞きながら涙し、一緒にいたイタリア語講師のマッテオさんは号泣していたらしく、多くの視聴者も感動したのです。これまでいろいろなナビゲーターが語学番組に登場し、女優さん、バレエダンサー、俳優さんなどみな個性的なのですが、語学を取得するというよりは、それぞれの個性や職業が生かされた経験をして、意外な面を見ることが出来るのが一番の楽しみなのです。いつも帽子をかぶりカラフルなシャツを着た古澤さんもそのバイオリン活動同様、多方面に興味を示し、車やグルメ、温泉などいろいろなイタリアを彼らしく楽しんでいました。

 ジェンマおばあちゃんのうちまでバイオリン担いで山道をのぼり、絶景の海や山を見ながら弾いた生バイオリンの音色は、もう古沢さんの演奏ではなく、音楽そのもの、ジェンマおばあちゃんの人生そのものを奏でていました。人と人、芸術、感情がかみ合って生まれる美しい風景は素晴らしいもので、私たちはこういうことを味わうために生きているのだし、歳を取って衰え終わりが近づいてきていても、見ている方向や目指すものの一点が定まっている人たちの終末の風景は美しいものだと思いました。さっき聞いていたラジオのスペイン語講座で、スペインのある昔話の朗読をしていて、最後が「愛には愛で報いる」という言葉で締めくくられていました。古澤さんは音楽という愛でジェンマおばあちゃんに報いています。

 私はうちにある沢山の着物たちに愛を持って報い続けていかなければなりません。うちに来ている着物たちは、着ていた人に愛されて来ています。それがはっきりわかるから、これから着物の愛情に輝いている人達に着て行ってもらいましょう。明日は七五三のお客様がいらっしゃいます。どうぞ暖かいお天気になりますように。