花びら餅

 皆さんにお正月用に着物をお貸ししているのに、私は寒くてなかなか着物を着る気になれず、三が日が過ぎた四日に夫が柴又に達磨さんを買いに行くといいだしたので、暖かい市松模様の絞りの着物を着て二人で出かけました。今年は初詣も密にならないよう、日にちを遅らせた人が多かったのか意外と柴又は混んでいて、帝釈様も入場規制で参道に並び、山門では熱を測り手を消毒して中に入りました。馴染みのお店のおじさま方や、受付のおばさま達に手を振りながら、ショートカットの髪が着物に良く似合うと自分では思っているのに、「良い着物着てるね」と絞りの着物を褒められるだけなので少しがっかりしながら、帰り道、かなり裏手にある和菓子屋さんの前を通ったら、花びら餅が売られていてびっくりし、他のお菓子とともに買ってきました。

 古くからあるこのお店は今は銀座の清月堂で働いていた息子さんが跡継ぎになリ、この辺鄙な高砂という地域では考えられないレベルのお菓子があるのですが、最近駅の近くにできた花屋さんも有名な結婚式場のフラワーアレンジをしてきた地元出身の方が、高いけれど洒落た花や植木をたくさん仕入れて、暮れからセンスのいいフラワーボックスが飛ぶように売れていました。

 花びら餅とか、六月の水無月というお菓子とか、お茶をやるようになってから初めて食べるお菓子も多いのですが、一度知ったからにはその時期になると抹茶とともに食べるのが楽しみになりました。コロナのせいでお茶会もできない今、静かにお茶を点てていわれのあるお菓子を食べるということを、うちに着物を着に来る人達と楽しんで行きたいと思っています。

 若い頃は自分は何をやればいいのか、何が一番大切か模索し、いろいろしがみついてやってきましたが、これだけ制限された生活が続くと出来なくて当たり前にもなり、争うこともひがむこともなくなって、今手元にあるものをいとおしんで行けば大事なところにたどり着ける気がしています。高砂だから、花びら餅の値段も銀座などと比べて格段に安いのですが、上品で美味しい味わいです。デイサービスから帰ってくる姑のおやつに出してみましょう。何というかしら、楽しみです。