玄虹日を貫く

 調布へ日本舞踊を見に行った時、娘が「キサブローさんが明日めざまし8という朝の番組に出るよ」と教えてくれ、その日はヤンママたちが着付けの稽古に来るので録画しておいて、昼ごはんを食べながら夫と見ました。お笑い芸人のEXITの、お宅訪問のインタビューだったのですが、夫はまずドアを開けて出てきたキサブローさんが女の人だったことにびっくりして、ふだんから娘がキサブローさんの話をよくしていたので、てっきり男性だと思っていたのだそうです。岩本和裁という着物の仕立て屋さんの四代目のキサブローさんは、斬新なデザインの着物や袴や羽織などを作り、娘も愛用しているし、私も頂いた女性用の紬を男物に作り直してもらったりしました。今日の取材のメインテーマはLGBTで、今キサブローさんは女性のパートナーと同棲していますが、その生き方をどう考えて捉えていくかということを、笑いを交えた温かい顔でいろいろ語っていました。

 前は金髪のショートだったけれど、今は落ち着いた黒髪で、あぐらかいていると、おとなしめの優しい男の子というイメージで、結婚制度問題とか住居とかいろいろ生きにくいことはあるけれど、可愛らしいパートナーと幸せに暮らしているようでした。夫は黙って見ていて、何も言いませんでしたが、外国のゲスト達もLGBTの方がいたし、わかっているし否定はしないけれど、理解できないというスタンスは変わらないようです。娘に夜番組を見たとラインしたら、キサブローさんの新しい動画を送ってくれて、しばらく前に「魔除け」という動画を見た時はちょっと意味が解らなかったので、今回も何も考えずクリックして見てみました。

 衝撃でした。 前のと全然違う。何だこれは!

「玄虹日を貫く」という題名の2分弱の動画です。

  時はアメリカ  70年代 LGBT 黎明期

  解放されたジェンダーは  七色の虹を架けた

  それから約半世紀 現代ストリートに翻る 七色の旗には 賛意も反動もある

  偏見 無関心 分断 イメージの固定化  自由なジェンダーのために 新しい虹を

  時を遡る事 江戸時代 「奢侈禁止令」を課された庶民は バイタリティと反骨精神で

  百種類以上の 地味色の グラデーションを 生み出した

  人は 束縛の中から 百色を 生み出すこともできれば 

  百色を混ぜて 黒=【玄】も生み出せる

  今こそ 虹の再解釈の刻 七色ではない 黒い虹を架ける 

  混沌とした浮世に 玄虹日を貫く

 目まぐるしく移り変わる映像とともに、これらの言葉が次々映し出され、この前虹が出た時、虹の七色には自分のうちにある無限の感情を解放して表現できる可能性があると私はブログに書いたけれど、キサブローさんはそういう次元を越して、新しい虹を、それも百色を混ぜて黒を生み出し、虹を再解釈して混沌とした浮世に黒い虹を架けることを表現している。  絶句するしかありません。

 ”玄虹日を貫く”とネットで調べても出て来なくて、中国の戦国策「魏策」に出てくる「白虹日を貫く」という言葉がもとなのでしょうか。「心が天に伝わること。または、戦乱になって君主に危険が迫ることのたとえ。白い虹が太陽を貫く現象をいい、この現象は願いが天に伝わったときや、戦乱によって危険な状況に陥る前兆として発生するとされている」どっちなのでしょう。後者のような気がします。でも、何回見てもまだわからない。キサブローさんは黒い虹を架けているのか。

 心の持って行き方が普通とは違っていても、それを解釈する仕方で人生は豊かになる。私にはまだよくわからない世界だし、娘にしても傍から見たら何をやっているんだとずっと揶揄されていましたが、自分の価値観、誠実さ、品格を磨いて生きて行くと、いつか何かが乗り越えられるのかもしれないし、もっと激しく生きているキサブローさんの背中を見ながら、自分を見つめ自分で決断し、自分の中にスピリチュアルなコアを見つけていくのかもしれません。

 今、キサブローさんにはしっかりした足場と生活があるのですが、その中で語られる「玄虹日を貫く」は、何を意味するのか、生きにくいという自分の生き方だけではない、コロナ禍の中である日突然生きている存在価値すら危うくなってしまうかもしれない、子供であっても大人であってもお構いなく、そういうものが襲い掛かってくるかもしれないという危機意識の象徴が黒い虹なのでしょうか。こんなこと言っていたら、キサブローさんに軽くあしらわれてしまいそうな気がします。もっと、いろいろ考えて見なければなりません。