自分との対峙  Z世代から 野村萬斎さんまで

 昨日は久しぶりに晴れて暑くなりました。午前中に義母を二回目のワクチン接種に連れていき、帰って来てからケアマネージャーさんの定期来訪を受け、午後は月一度の定期検診に行き、薬を貰って帰ってきましたが、途中でゲリラ豪雨もあったりで慌ただしく忙しい一日が終わって、私はすっかり疲れてしまいました。認知症の進んだ義母は、その時は色々感謝するけれど、少しするとすべて忘れてしまい、訳のわからないことばかり言い始めるのです。今一番体の具合が悪いのは私かもしれないと思いながら、病院で知り合いの看護師さんに会って、娘さんの作ったレジンの帯留めを購入したことが、唯一気持ちの救いでした。

 最近は子供さんのコロナ感染も増えてきて、ヤンママも彼女のママ友も当分来てもらわないようにしているし、天気も悪い中、どうしようかと思っていたら、たまたまフェイスブックで知り合いの26歳のヤンママが撮った沢山の写真を見て、その感性が温かくて、私が色々な着物を着たところを撮影してもらおうと思いつきました。アマチュア写真家の彼女と私だけだから感染には極力気を付けられるし、今喪服の帯にスカーフや布地などいろいろなものを被せて試しているので、夏着物にこれらを締めて、いろいろ写真を撮ってもらうことにしました。外国のゲスト達に写真を送って見てもらいたいし、エバンゲリオンの手拭いなども使えばその意味が解る若者もいるから、反応が面白いのです。今まではお客様や外国人に着物を着せて、お寺や庭園で写真を撮って喜んでいただいていたのですが、コロナ後は同じことはできないと気が付いた今、戻るべきは自分自身なのでした。

 若き落語家の桂枝之進さんについて調べて見た時、意識的に自身の存在意義を問う時間や場所を作ることは、自分自身の人生を歩んでいく上でとても重要で、Z世代の若者たちが自分との対峙を大事にしているということが、よくわかったのですが、今日ネットに出ていた三菱UFJ信託銀行相続研究所所長の小谷亨一さんと野村萬斎さんの対談も、そういうテーマについて語り合っているので、年代、職業を問わず、コロナ禍の今考えていかなければならない事は同じなのでしょう。「さまざまな困難を迎える今の時代、いかに生きるべきか」このコロナ禍で、どんな運命であろうと、現実と向かい合わなければならないし、全ての人間がそこから逃げ出すことができないという事実に向き合う時、例えば萬斎さんが狂言という伝統文化を継承するために努力してきたやり方や、先人の考え方は、有益な指針であるということ、どう狂言の本質を伝えるかとか、狂言に新たな価値観を見出すということは、長子に集約されてきた家族の文化が個人の時代になってどう継承されるかという話にも通じ、最後には自分が何者かという問題に直結していきます。こうした文化の継承を長いタームで見るという意識は今は希薄になってきている気がすると萬斎さんが言うのですが、いやいや二十歳の桂枝之進さんが落語をやっていく時に考えていることと一緒です。彼は落語を自分で選び、小さい時からいろいろな形で勉強し実践してきて、十何年の実績があるのです。

 今私は義父が作りあげ、夫が継承し、そして終わらせた整骨院の場所を全部使って、一種の着物のアトリエを作ってきました。それが良いことか悪いことかわからないし、義父が生きていたら何というだろうといつも思うのですが、この三階建ての頑丈な家に、あり続けるべきものと、なくてもいいものの見極めをどうするか、私がおこがましくすることではないかもしれない、でも着物に代表される日本文化の本質的な意味や、この家に寄せられる沢山の着物たちの意思を、自分の尺度を超えた大きな構えで受け止めたいし、こういう意味があるのだという新たな価値観を見出す時ではないかと、コロナ禍の今感じています。着物を着るということの本質が何処にあって、それをどう私が理解しているかということ、そして着物という文化の本質をどう感じてもらうか、これを海外のゲストに問うていきたいのです。

 個人の時代になればなるほど、家族が共有するものをどう作っていくかというのが大きな問題になると言いますが、外国人着付けに協力してくれ、私以上にゲストに似合う着物の選択ができる夫や、英語での接客や着付けなど、何回か手伝ってくれた子供たちは、外国人との接触も、着物をはじめとする日本文化や本質を感じとる感性も持っています。みんな歩みが遅くてヒエラルキーから大きく外れているということが、かえって自分の中の価値基準やアイデンティティをどこに持って行くかということを理解できるのかもしれないと、やはり歩みの遅い親の私は思うのです。自分自身に対する対峙の仕方を今きちんと突き詰めて、何かの形にすることが必要なのでした。

 九月の初めに写真を撮りに来てくれるまで、いろいろやることが沢山あります。体を絞って?準備をいたしましょう。