八重樫季良さんのハンカチ

 昨日ヘラルボニーで買った八重樫季良さんの二枚のハンカチを、喪服の黒い帯の前と後ろに被せ、ユニークな柄の単衣の着物に合わせて締めてみました。前に明るい鮮やかな「家」という作品を持ってきて、後ろに緑がとても綺麗な「車」という題のハンカチを付けてみました。うーん、難しい、合っているかわからないし、着物も八重樫さんのデザインも両方個性が強いから、どこか違う気もするけれど、あえて言えばそれが面白い・・よく外で着物姿を見かけると、私は必ずガン見してしまい、すれ違った後振り返ってどんな帯か確かめてしまうのですが、もしこの帯だったらびっくりしてしまうでしょう。  それにしても、この緑のハンカチ、いろんな色を使い、様々な柄があって、なんだかわからないけれど凄いのです。早速、八重樫さんについて調べてみました。

 「生涯、ただひとつの手法で、この世界に存在しない”建築物”たちを作り出す」八重樫さんは1956年岩手県北上市で生まれ、ダウン症という先天的の知的障害があったのですが、幼い時から絵を描き始め、以来半世紀に渡って美しい色彩の抽象的な幾何学模様の絵をずっと描き続けています。大工であった父親の影響から、そのイメージの源に「建築図面」や「工事現場」といったものがあり、彼のデザインは、独自のアレンジによって描かれた建築物なのです。

 数千点の作品数はずっと変わらないスタイルで描かれ、定規を使って引かれる真っ直ぐのラインは細かく繊細で、誰に習うことなく独創によって生み出したものです。知的障害のあるアーティストが描く作品の魅力とは、尋常でない強烈なこだわりが生み出す”ルーティーン”が大きなカギで、彼等の創作表現は、繰り返し丸を描き続ける、繰り返し電車を描き続ける、繰り返し顔を描き続ける、繰り返しひらがなを描き続ける・・自分の人生観に影響を与えた事象をびっしりと敷き詰める作品が多い傾向にあり、それが独創的な作品を生み出しているのです。革新であり、自由であり、そしてクレイジーな創造の世界は、強烈なアイデンティが溢れる「表現」の魅力を広く訴えているし、「できない」事を「できる」ようにするのではなく「できる」ことをさらに「できる」社会に向けて、メッセージを発信しようとしているのです。

 今日は夫も義母もいないので、久しぶりにこの着物を着て、二部式の鈴乃屋の喪服の帯にハンカチを重ね、ヘラルボニーのマスクも付けて、水曜日に写真を撮ってもらうのに備えて、試してみました。マスク生活しているとどんどん化粧が薄くなり、インパクトのない顔には、八重樫さんの強い色たちが救いになり、嬉しい気持ちになります。たくさんいただいている着物の中には、個性的でどんな帯を合わせていいかわからず、着るのをためらわれているものが何枚かあって、これからいろいろチャレンジしてみようと思う理由は、ヘラルボニーの作品には強烈なアイデンティティと、インテグリティ(誠実、真摯、高潔)があって全力で真面目に取り組み続けている彼らの努力を認め、助けてくれる人たちが、素晴らしいからです。パラリンピックの開会式を見て感激したことがキッカケで、私の着物への取り組み方が広がり、変わってきました。コロナがまだおさまらない今、あたらしい情報として私の着物姿をたくさんの外国のゲストに送れるのは、恥ずかしいけれど有難いことです。