白洲正子さんの気配

 このところ若い方々との交流が増えてきて、とても楽しいのですが、それぞれラインのやり取りをしながら、この方は誰と繋がった縁なのかわからなくなる時が出てくるようになってしまいました。前に着物を知り合いの紹介で送って下さった方が、宝塚市に住んでいた親戚の着物整理をしていて捨てるに捨てられず、使って下さいとまた段ボール二つ送ってくださいましたが、お顔を見たこともない方なのに、お礼の電話しながらいつのまにか、ため口で着物の話をしているのに我ながらびっくりしています。

 赤系の変わった花柄の帯や黒地に紅い線で花が咲いている帯、洒落た模様がついている黒い薄いショールなどたくさん入っていて、今どきのアンティーク着物好きの若い女の子が欲しがりそうだと思っていたら、先だって七五三の写真の撮影に来てくれた妹さんが目を輝かせて、選んで持って行ってくださいました。むやみやたらに欲しがったりするタイプでなくて、今自分が持っている着物に合う帯を時間をかけて選んでいる姿は、エアビーでやって来たヨーロッパ系のゲストのようで、気に入ったものがなければ決して持って行かないスマートな態度を懐かしく見ていましたが、「羽織もいる?」と聞いたら黒羽織がいいとのこと、私の潜在意識が、白洲正子さんの銀座にあった着物のお店「こうげい」の畳紙に包まれた、柴又から頂いた羽織と結びつきました。圧倒的な黒い絹の質感、面白い地模様、臙脂の花が沢山咲いている裏地、そして何色かのカラフルな糸で縫われた紋、持ち主は安田財閥に関係する方と聞いたことがあったのですが、白洲正子さんのお店で買ったということは、彼女の好みと思考と感性が作り出したものなのでしょう。

 綺麗でスマートで着物の好きな妹さんが着てくれる、やっとこの羽織を着る資格のある方と巡り合ったのです。趣味で着物を着て写真撮ったりしているだけですよというけれど、前に見せてもらった着物を着た写メはモダンで素敵だったし、将来がある着物の着手と、白洲正子さんがつながったことが凄いのです。私より上の世代の方が自分のために着物をたくさん作り、その方が亡くなった後、娘さんはそれらを負担に思って、どうにかしてほしいと相談した柴又の民芸店のご主人と私が繋がっていたご縁で、沢山の着物を戴きました。着物を愛してよく着ていた方だから、素晴らしい紬や色無地がたくさんあるのですが、汚れもかなりあって、どうしようかと迷いながら、だからと言って処分することはできず、私のところに来たからには何とか再生させようと、染め直したり、女物を男物に作り直して着流しで着れるようにしたりして、フランス人やノルウェイの金髪の男性に着てもらったら、本当に素敵でした。

 決して私が着ようとは思いません。勿論着れるものもあったけれど、その着物と波動が合う方にお着せして、双方が輝く瞬間を見る時の方が格段に嬉しい。着物を着る機会のない方々、前は外国人、今は日本人ですが、タンスにしまわれたままで何十年もしまわれ、抑圧され続けてきた着物たちが表に出てきて、温かい人肌に触れ、陽の光を浴びて輝き、蘇る時空に立ち会えることの素晴らしさを感じています。持ち主あっての着物だけれど、本当の美しさがだせるのは、心をオープンにした状態で着物をまとい、蘇ってきた波動と一体化できる資質を持つ人なのでしょう。 

 背筋を伸ばして、第四の眼をいつも感じながら、誠実に誠実に、いろいろなものと向き合って、めぐり逢いの波動を深めていきましょう。