沖縄のアメリカンファミリー

 このところ、沖縄からのゲストが続いていて、それも急な予約で準備にあたふたしています。昨日は7歳の女の子、5歳の男の子、一歳の女の子を連れた三十代の若夫婦がやって来て、全員で着物を着たいとのこと、まさに去年やった家族五人の七五三着付けのアメリカ版です。パパママの身長は170㎝なので男物のアンサンブルと、ママが京都で買った帯に合う着物を選べばいいし、七歳の女の子の着物もたくさんいただいたのがあります。五歳の男の子用に、君塚さん手作りのブルーの紬の羽織袴を用意していて、年代物なので変色したところがあって、日本人の男の子に着せるのはちょっとためらわれるのですが、外国の男の子が着るとカッコよくて、ダメージの付いた紬というニュアンスを帯びるのがいつも不思議です。困ったのは1歳の女の子で、子供服のお店に行けば着物柄のTシャツがあるらしいけれど、行く暇もないので、絞りの花柄の赤い被布を着せることにしました。

 何事も準備が大切だと言いますが、できるかどうかわからないけれどティーセレモニーのセッティングもして、沖縄は暑いからプレゼント用の子供の浴衣や帯も揃えて、ちょっと遅れてやって来た家族を迎えました。赤ちゃんを前抱っこしたレオナルド・ディカプリオに似たパパはアメリカではいろいろな所にいたけれど、でもポートランドがホームタウンで、今はイクメンでママを支えているそうです。フロリダ出身のしっかり者のママはちょっとふっくらしているので、私の菊の模様の濃紺の訪問着に京都の帯を締め、帯締めはちょこまか動き回る末っ子のハナちゃんが、帯締めが沢山入っている衣装箱からエイッと取り出した薄紫のを締めました。

 このところ七五三の七歳の女の子はよく着付けをしているし、アーリーという長女ちゃんはおとなしくてきつめに帯締めても嫌がらないのだけれど、パパに写真を撮られる時は作り笑いをするので、内心何でこの格好をしなければならないんだろうと思っているのかもしれません。パパが電車に乗ってお寺へ行くのは無理だというので、近くの神社へ行ったら、傍にある小さな公園に目を輝かせたアレックスは袴姿で滑り台に乗り始め、沢山写真を撮ってからうちに帰ったのですが、子供たちのエネルギーを発散させたいママは、後のティーセレモニーもカットして、先ほどの公園で遊ばせるために帰り支度を始め、着物を脱いで靴を履いたお姉ちゃんは、元気になって自分の学校の庭の遊具についていろいろ話だし、やっと子供らしく自分を出し始めたので、私はなんだかホッとしました。

 それにしても、ママやパパの英語も、子供たちの英語も私たちは聞き取れず、早口なのもあるけれど、何を話題にしているのが掴み取れないのです。コロナ以後は働くのも大変だし、感染もまだまだ心配で、自宅で主夫をしていて、他人と接触しないというパパが、日本のワクチン状況について質問したような気がしたけれどよくわからなかったし、アレックスが二階の和室に上がってきた時、和式のテーブルを見ていろいろ質問してきた時も、本当に何を話したいのか見当もつかず、改めて自分の英語能力が情けなくなりました。

 京都では、銀閣寺、三十三間堂ともう一つお寺を巡り、桜はまだだったけれど、東京へ来る時の新幹線で車窓から見た桜が綺麗で、ママが興奮したこと、東京ではナショナルパークへ行って桜を見て、お台場のガンダムを見て、デジタルアートミュージアムで光と戯れ、夜は寿司体験で寿司を食べるという素晴らしいプランを予定しているのだそうです。コロナ禍でなければ、そこここに外国人の姿を見たのでしょうが、今家族で旅が出来る彼らはラッキーだし、コロナ前とは明らかにゲストの情況がずいぶん違うことは確かです。仕事もなくなってしまう人も多い、これからどんな人生設計をしていけばいいのか模索しつつ家族で日本を楽しんでいるこのファミリーの姿を見ながら、その一方で、戦いを仕掛け、沢山の市民を殺している人間たちがいるのです。こんなにも戦争は、殺人は、簡単に起こっているのに、いつ自分がそうなるかわからないのに、まだ実感できない自分がいます。

 今日は、次女の同級生のお父さんがデニム着物を着に来てくれました。たくさん着物を下さった方が、お孫さんの七五三の草履を借りたいと言っていらして、掛かっていた菊の模様の濃紺の訪問着を、小学校の入学式に出る娘さんに着せたいと借りていかれました。着物が動いていきます。私に出来ることは、沢山の方々に着物を着てもらって何かを感じ取っていただくことでした。自分の心を平明に保って行きたいと思います。