長崎の大学からのゲスト

 このところ、急に予約が入るケースが多くて、問い合わせはあったのですがいらっしゃるのかどうかわからなかったゲストから、一日前に予約を戴きました。背の高い細い23歳のドイツ人の女の子二人で、何と長崎の大学に短期留学しているそうです。五月に入ってから暑くて20度を超す日が続くので、袷の着物でなく単衣の着物にしないといけないと思い、三階と一階を何回も往復して着物と帯の入れ替えをし、新しい抹茶を買ってきたりいろいろ準備をしていたら、久しぶりなのでもう疲れてしまいました。

 そんなことは言っていられない、これから四時間の勝負だと気を取り直してふと外を見ると、空が灰色に曇り雨が降ってきたので心配していたら、雨の切れ間に二人のスレンダーな美人さんが現れ、夫もいそいそ着物や帯選びの手伝いをしてくれました。単衣の着物は十枚ちょっとあり、どうしても華やかさには欠けますが涼し気で、絽の長襦袢も五枚あるので、何とか二人のお仕度をして、アップにした髪に飾りをつけ、素敵な着物姿に変身した二人に、私は以前見ていたドイツ語講座で覚えた言葉、「Wunderbar」

「Ist schön」を連発していました。

 外語大学で沢山の国の人達と一緒に勉強している彼女たちは、ドイツ語英語フランス語スペイン語を話し、日本語はひらがなとカタカナは読めるけれど漢字はダメだそうで、将来は翻訳関係に進みたいようです。背の高いパウラはクールな北欧系の顔立ちの金髪美人さんですが村上春樹の短編が好きで、早稲田のライブラリーは素晴らしいから是非行った方がいいと勧めましたが、残念ながら次の日に長崎に帰ってしまうとのことでした。

 観光客でないゲストが来るようになって、日本に対する興味や感覚がコアな感じがしてきているのですが、柴又のお寺に行っても今までと違う質問や感想が出てくるので面白い反面、下調べが足りないと言葉に詰まってしまいます。パウラはお寺のなかに新たに飾られた小さな不動明王と菩薩の像の関係性について聞いてきて、日本語でわかればなんとかなるけれど、その知識がなければ五里霧中です。この二人と一緒にいて、言葉に対する感情というものがとてもあたたかい気がしていたのですが、大学のサイトを見ていたらヨーロッパで一番ネイティブスピーカーが多い言語はドイツ語だとあって、テレッサに聞いたらオーストリアもスイスもドイツ語だから、と答えてくれました。テレッサはスペイン語が一番きれいで好きだそうですが、私のエアビーのサイトもフランス語ドイツ語英語イタリア語スペイン語スロバキア語マルタ語?で書かれたのがあるのにはびっくりしてしまいます。日本のように島国で一つの言語ですむのではなく、いろんな国に囲まれているヨーロッパは言葉に対する感覚が全く違うだろうし、紛争が絶えない国では母国語を話すことを禁じられることもあるというのは恐ろしいことです。

 この前義母の甥っ子さんの別荘で会った中国人の女性は吉本ばななさんの小説が好きだけれど翻訳で読む時に違和感を感じて、日本語で読むとより何かを感じるのではないかという理由で日本語を学び、日本で働いているといっていました。若い子たちの中に自分のアイデンティティをきちんと何かと合致させたいとい欲求が強い気がして、だから日本の文化を見て引っかかったことを質問してくるのでしょう。これまでと同じことを同じようにやっていけばいいのではないということが、私の小さな仕事の中でも言えるし、着物を着るということでも今までとは違うモチベーションでやる方が、みんなの為にもいいと思っています。

 それにしても、終わってハグして別れた後どっと疲れが出て、足がつっているし、白内障の影響で写真が上手く撮れていません。困ったものです。心身を鍛え直しましょう。