おじいちゃんは日本人

 昨日は夏日の気温になると天気予報は報じていて、日本語の話せる20歳のゲストに振袖を着せてあげようと思っていた私は、どうやったら厚い生地の着物を涼しく着ることが出来るか、ずっと悩んでいました。時間ぴったりにロングヘアにショートパンツ、デニムの上着で現れたエラさんは、マスクしているけれど目元が東洋っぽくって、挨拶を交わしてから思わず日本人の血をひいていますかと質問してしまいました。

 “ビンゴ!” 日本語は話せないけれどおじいちゃんは日本人だそうで、双子の妹さんがいて、四月から八月まで日本の大学で日本語の勉強をして、それからカナダの大学に戻るそうです。学校の授業では英語は使ってはいけないそうで、上手に日本語を話すのだけれど漢字と文法は難しいとのこと、でも英語、フランス語、スペイン語が話せて、将来はキャビンアテンダントになりたいエラさんは、今どきの若者らしく地味好みで白黒茶系の色が好きというので、振袖もいろんな色を出しておいたのだけれど、選んだのは柴又のきもの好きのおばあさまから戴いた白地に菊の花が咲き乱れる素敵な振袖でした。暑いので長襦袢もなしにして、いつも着物をたくさん頂く方も見学にいらして、高齢者たちがあれこれアドバイスする中で、エラちゃんは我が道を行くタイプだから自分の好みの着物姿を作り上げました。167㎝と高身長なので着物も短いし、年代物なので模様の箔の部分が取れかかっているのだけれど、白内障がひどい私には綺麗に見えてしまい、片目を手術してよく見えるようになった夫が「着物の模様がとれてる、剥がれてる!」と騒ぐのだけれどスルーして、最近声をかけて下さる近所の鳥やさんのおばさまにも声を掛けて、エラさんの晴れ姿を鑑賞していただきました。

 スーパーで買い物している高齢者の方々の立ち話を聴いていると、一人暮らしだから全く話をしないで一日を過ごしているというので驚くのですが、精神状態がおかしくなり認知症になり、施設にはいるケースも増えているそうです。最近はゲストの着物姿を喜んでくださる方が増えてきているのも、毎日良くないニュースばかり見て気が滅入ってしまうところを、救ってくれる気持ちになれるからかもしれません。エラさんと話していて、いろんな新しいことを聞いていると、もっとやることが私たちにはたくさんあるということがわかるし、幾つになっても勉強することは必要だと感じさせられました。

 後で英語と日本語でレビューを書いてくれたのですが、「今日は本当に楽しかったんですが、マジで嬉しいです。」とあり、改めて日本語は難しいなと笑ってしまいました。八月にカナダに帰る前に、もう一度来たいとのこと、日本人のおじいちゃまに何か着物を差し上げたいものです。エラさんには玉子焼き器を買ってくれるように頼んだというのですが、和食が好きでお稲荷さんも作ってくれるおじいちゃんのお年を聞いたら、何と夫より若いのです。エラさんはこの場所を日本の我が家と思ったと書いてくれて、また一つ新しいご縁ができて嬉しい限りの私たちでした。