Be More Chill

 先だってゲストとして来てくれたリンゼーは、七月末から日本で行われるミュージカルの振付師なのですが、日本のアイドルが主役に抜擢されたとあってチケットはソールドアウトだそうです。若いファンがたくさん詰めかけるでしょうから、私が行っても場違いだろうし、諦めたけれど興味深々で、ネットでいろいろその内容を調べて見ました。

 20代の外国の子たちに絶大な人気を誇っている「BE MORE CHILL」は、2004年に出版されたアメリカ人作家のネッド・ヴィジーニによる同名小説をもとにしたミュージカルで、2015年にアメリカ・ニュージャージー州で誕生したものです。1カ月弱という短い公演期間だったにも関わらず、YouTubeにて公開された楽曲が注目され大ヒットを記録したというのですが、「BE MORE CHILL」の製作はスリリングで驚きの連続だったそうです。「ティーン・コメディとSFを融合させたこの作品は、私たちが愛する日本のアニメやポップカルチャーから多大なる影響を受けているので、日本での上演はまさに夢のようです」と音楽担当のジョー・アイコニスはいいます。

「このちょっと風変わりなミュージカルが世界中の人々の心に響くという事実自体にも私は驚かされています。私たちの小さな尖った作品が世界中を席巻している状況は非現実的に感じますが、今回の日本での上演には必然性を感じています。なぜなら"it's from Japan"なのです。」ジェレミーはごく平凡なティーンエイジャーだった、ただし”Squip”を知るまでは。その小さな錠剤は日本製の小型スーパーコンピューターで、彼が密かに心を寄せるクリスティンとのデートや、今年最もイケてるパーティーに招かれること、ニュージャージー郊外の高校生活を無事に生き延びるチャンスなど、彼の望みを全て叶えてくれるものらしい。でも、学校一の人気者になることは、そのリスクに見合うほどの価値があるのだろうか。

 心に傷を抱えた高校生の青春物語を舞台にしたこのミュージカルは、20代の若者を中心にSNSで大きな話題となりました。オフ・ブロードウェイ公演でも大成功を収めてから一か月もたたないうちにオン・ブロードウェイ作品として公演され、まるでアメリカン・ドリームのような興行成功なのですが、実は原作者は舞台公演の2年前に自殺してしまったという事実もあるのです。今から七年前に誕生した、日本のアニメやポップカルチャーから多大な影響を受けているというこの作品は、コロナ感染が広がる前だったら、とても腑に落ちる、身につまされる内容だし、学校のヒラエルキーから外れてしまい、引き籠るかいじめられるかという悩みを抱えて生きている子供たちも多かったのです。アメリカの話だから、クスリを使うというシチュエーションが出てくるのでしょうが、自分の性格やそれこそアイデンティティまでChill(陽気)に変えられたらどんなに楽だろう、でも、いつも笑って楽しく過ごせる明るい人生は、コロナ禍前にしか存在しなかった。

 

 どんなにみじめな思いをしていても、どんなに馬鹿にされても、それをみんなを救う道に転換できる力を持った若者がたくさんいます。私たちはその姿を見て、発奮し、力を得て、何とかみんなのためになることを探し続けなければなりません。"Be More Chill"になれるクスリは初めから私たちは持っているのです。自分自身と向き合うプロセスの内省の先にある解放が「レゾン・デートル」であるならば、今までとは違う自分の抽象概念を表現するという方向の道をさぐりつつ、内面のせめぎ合う葛藤をありのままに差し出すという力量を身につけ、相手を信頼して託してわかちあうことなのかもしれません。

 でも、やはりこの舞台を見てみたい、何かで見ることができることを期待しています。