Hasta La Vista, Baby.

 昨日テレビ放映された、イギリスのジョンソン首相の辞任演説は、最後に”Hasta  La  Vista,   Baby"と締めくくられ、聞いていた私と夫は思わず「カッコいい!」と叫んでしまいました。夫は映画「ターミネーター2」のラストのセリフだというのですが、そのジャンルの映画には疎い私は、長年勉強していたスペイン語で一番よく使った大好きな言葉なので興奮してしまったのです。スペイン語圏のゲストや、スペイン語を勉強しているゲストと別れる時はハグした後必ずこの言葉を言って別れたのですが、まさかイギリス議会でスペイン語の挨拶が聞かれるなんて、あまりにかっこよすぎます。

 いろいろ問題が多かった部分もあるジョンソン首相に、私は大きなワンパク少年のようなイメージを持っていて、そういえば四年前のゲストで、アメリカから新婚旅行で来ていた若いかなりふっくらしたカップルの旦那さんにちょっと似ていて、何と自宅では狼を飼っているという彼は、着物体験後行った京都でわざわざお酒を買ってうちに届けてくれたのでした。彼女は無口でしたが、声楽を習っていたことや、ダイエットの為ビーガンだったときがあると、ぽつりぽつりと話してくれたことを覚えています。 

 それにしてもジョンソン首相はどんな人なのか調べてみると、さあ大変、本名?はアレキサンダー・ボリス・ド・フェファル・ジョンソンで、オスマン帝国末期の内務大臣だったアリ・ケマルの子孫であり、父方の祖父であるオスマン・ケマルは第一次世界大戦中にイギリス国籍を取得し、自らの母親の旧姓であるジョンソンを姓に定めたのですが、父方の先祖にはイギリス王ジョージ2世がいて、彼の玄孫であるヴュルテンベルク王子が女優兼オペラ歌手のドイツ人の愛人との間に設けた娘さんがジョンソンの高祖母に当たるのです。母方の曾祖父はロシア帝国出身のリトアニア系ユダヤ人で、ジョンソン首相は多国籍に渡る先祖(キリスト教徒、ユダヤ教徒、ムスリムからなる)について触れ、自らを「ひとり人種るつぼ」と称しています。彼は欧州懐疑派の代表的な人物で、以前は左派によって主張されることが多かった欧州懐疑主義を、右派にとって魅力的なものに変貌させるのに大きく貢献し、その影響は現実政治の世界にも及び、保守党内における親欧州派、懐疑派の軋轢を刺激することにもつながり、イギリスにおいてもっとも人気のある政治家の一人であるそうです。

 EU離脱、コロナ対策、ウクライナ紛争などいろいろな問題にかかわってきたけれど、辞任せざるを得なくなり、それにしてもこの混乱期なのに、あちこちの国で辞任や選挙のニュースが流れています。小さい時から勉強して学歴を付けても、国を背負おうというような力をつけることができない、何が人間を大きくするのだろうと思いながらハチャメチャなジョンソン首相の経歴を読んでいて、人間の幅というかアイデンティティはその人の血の混じり合いから来るのかわからないけれど、時々自分にはどれだけの国のルーツが交じっているのかわからないんだと肩をすくめるゲストが何人かいたことを思い出しました。多分一つの血しかない私は、相手にどれだけ複雑なアイデンティティがあるのか想像しながら四時間共に過ごしたこの貴重な体験は、途轍もなく大事なもので、まして彼らは私の着物を着ているのです。

 サンボSという名前で一人で予約してきた若者がいました。道を間違えて家に来るのに難儀した褐色の肌の彼は、お母さんはフランス人で、今はメルボルンに住んでいるのですが、たまたま一緒になった人のいいフィリピンの中年夫婦と仲良く柴又を散策し、別れ際にガールフレンドはフィリピンの子なんだと言っていましたっけ。

 頭をちょんまげ風に結んだ中米出身の男の子は、浅黒い肌に紺に白の流れのある浴衣がとてもよく似合い、お店でお団子を食べていたら傍にいた日本人の男性から写真を撮らしてくれと頼まれて嬉しそうだったし、彼は初めてなのに抹茶をとても上手に点て、ティーセレモニーが楽しかったとレビューに書いてくれました。私が多分一生いけないであろう世界中の国からたくさんの外国人が来てくれ、英語が通じないこともあったけれど、そんな時簡単なスペイン語が役に立つことがありました。人間の生き様とか、考え方とか、姿勢とか、それに発せられる言葉があり、アイデンティティがあり、存在意義があるときに、言霊というものの力を強く感じる時があります。腕に大きなドクロの入れ墨をしたお兄ちゃんが抹茶を点てている時に、恐る恐る素敵なタトゥーねと褒めたら、これは大好きだったおじいちゃんなんだと教えてくれて、この子はいい子だと感激したことがあったけれど、ジョンソン首相が最後に「Hasta  la  vista !」と言ったことから、私はこんなに強く色々なことを思ったのです。

 別れ際に、また会うかどうかわからない相手にいう言葉がHasta  la  vista !だから、多分もう会うこともないゲストに言うのは正解なのだけれど、終わりがあるとそこからまたはじまりがあると信じ、私はこれから始まる世界の輝かしい未来に向けて、今こう言いたいのです。Hasta luego   またねー