鈴虫

  鈴虫は古くから「鳴く虫の王」と呼ばれ、黄金の鐘のような声で鳴くことから「鈴虫」と名付けられ、万葉集にも源氏物語にも数多く登場し、江戸時代の中期には「虫売り」が商売として成立していたそうです。季節の移り変わりを虫たちの鳴き声などで感じる私たちですが、実は世界共通ではなく、欧米人は虫の鳴き声を雑音として聞いてしまうらしくて日本人のように風情を感じていません。なぜこんな違いが出てしまうのかには理由があって、人間の脳は左右で機能が違い、左脳で言語をつかさどり、右脳で雑音の処理をしていますが、なんと日本人は例外的に虫の声をはじめ自然界の音を言葉と同様に左脳で聞いているそうです!

 子どもたちが小さい時学研の科学雑誌を取っていて、付録に鈴虫キットという土と鈴虫の卵が入っているプラスチックのコップがついていたことがありました。小さい頃は柴又の土手で、幼稚園の帰りに虫をたくさん取ったり、大きなトンボがたくさんいて、昆虫採集をするのが大好きだった私は、鈴虫キットに毎日大匙一杯の水をかけてじっと見るのが楽しみで、ある日土がぴくっと動いて小さな虫が出てきた時には本当に感動しました。子供の鈴虫はだんだん大きくなり、ナスやキュウリや鰹節の粉を食べながら、秋にはいい声で鳴くようになり、兼三おじいさんが甕に鈴虫を飼っていて、いい声で鳴いていたと義父が言うので、仏壇の前に置いたりしていました。鈴虫の声は、清々しくて深くて、秋の夜長に布団の中でその声を聞いているとしみじみとした思いに駆られます。

 兼三さんの写真を飾ったら、鈴虫の声を聞きたくなって、今日はてくてく歩いて奥戸園という大きな園芸店に行って見ました。微かに虫の声が聞こえるので行って見ると、大きなかごに250円の鈴虫が5匹ぐらいいるのだけれど、声が疲れているみたいで、この時点で買ってもあまり長生きしないと思って諦めて帰ってきました。今年は無理だったら、来年に飼おうとも思うけれど、これからもう一度神奈川の田舎に行くし、山の中で見つけようかしらと笑われるようなことを考えていたら、急に予約が入り、ドイツ人二人着物体験にくるとのこと、さあまた準備しなくてはなりません。敬老の日とお彼岸と、父の祥月命日と、ゲスト来訪と、そして鈴虫探し。季節は秋です。