Lena の お点前

 いやはや、ドイツの女の子のお点前で、お茶をいただく日が来るなんて想像もできませんでした。

 

 一時ちょっと前に、玄関先に現れたドイツ人の女の子二人は、外で2リットルの水のペットボトルの水を飲みながら、時間通りに家に入ろうと待っているようで、姿を窓から見かけた私は、あれ、そんなに大きくないと思いながら、玄関を開けました。こんにちはーと入ってきた彼女たちはやはり大きく、170センチ以上が三人(私も!)いると玄関が狭いのです。健康的な彼女たちはドイツで日本語を勉強し、それから親元を離れて大学へ入り、奨学金で日本に一年間留学してきたばかりの19歳と21歳の女の子で、19歳のルーのおじいちゃんが夫と同じ年で孫が6人いてという話を聞いて、夫は嘆息しながら日本語で一生懸命話したり、着物選びを手伝ったりしています。

 自分で浴衣を着ることができるというレナが、本当に上手に着て半幅帯も丁寧に結んでいるのを見て、私は圧倒されたのだけれど、日本で着付けを学んだドイツ人の先生に習っていると聞いて、178センチもある女の子の浴衣や振袖がドイツにはあるんだということにびっくりしていました。丁寧できちんとしていて、完全に私は性格で負けていると感じつつ、二人に振袖を着せて写真を撮ってから、レナのお点前でみんなでお茶をいただきました。裏千家だから袱紗捌きなどいろいろ違うのですが、綺麗な手さばきに感心しながら、日本人でここでお茶を点てて下さったのは、お茶の先輩とヤンママだけだったし、若い子たちは飲むことも拒否したリ、関心ないからと言っていたことを思い出し、今の日本人のアイデンティティは、関心がないということなのかと思ったりしていました。

 日本語を話せるというから、私たちは安心していろいろ喋るのだけれど、あとでルーに聞いたら、よくわからないことが多く、わかる単語が一つしかない時もあると言われてしまい、私たちが早口で滔々と話す外国人の話が全く分からなかったときと同じなんだと、会話の難しさをつくづく感じていました。でも日本人より日本の作法を知っている彼女たちの、ドイツ人としてのアイデンティティーは何なのかしらとふと疑問になったのだけれど、例えばドイツで一番食べられる料理はスパゲッティだとか、宗教は持っていないけれど町には教会があるとか、雪が一番好きでリュージュをするとか、映画音楽が好きだとか、お酒やビールは嫌い、好きな飲み物は水とか聞いていると、若いから当たり前なのだけれど、透明な新しい感覚だなと思います。

 夫は、これからは孫世代のゲストなんだなあといっていたけれど、浴衣を着て柴又へ行ってもいつもとは違うリアクションで、これから金沢で勉強するのだから、町のたたずまいも全部違うだろうし、やはりこの体験も難しくなってきたなと痛感しています。帰り際のいつものおみやげタイムでは、私が若い時作ったオレンジのウールの大きな着物に付け帯、エキサイティングな色の半幅帯に紫の帯揚げと、好きなものを持って行ってもらい、浴衣が欲しいというルーは小さめの可愛いものを選んでしまったので、作り帯やゴムベルトなど、レナに教わって着て下さいと渡しました。ドイツ人らしく、持参の大きめの折り畳みのエコバッグに着物を入れ、リュックを背負って帰る彼女たちは、夕飯は昨日作ったトマトソースが残っているのでそれでパスタを作って食べるとのこと、質実剛健で真面目で勉強好きな優秀な女の子たちでした。

 あとでドイツ語でレビューを送ってくれたので、翻訳サイトにかけようと、久しぶりにエアビーのサイトを見たら、私の体験はその他大勢の方に入っていて、伏見稲荷っぽいオレンジの鳥居の前で綺麗な外国人さんが着物を着てポージングしている体験のサイトがトップに来ているのに気がつき、時代は過ぎていくなあと感じています。新しいステップをしていく時だなと思いますが、インドネシアでずっと私のサイトを見ていた方が、やっと日本に来られるようになったので、ぜひ着物を着てみたいと予約してきました。

 それにしても台風の影響が長引くので、お彼岸に入るのにお墓参りにも行けません。どんな不条理にも理不尽にも、だんだん慣れてきて、それを越す軸を持とうと思います。さあ、これから棗に残った抹茶を点てて、仏壇にお供えしましょう。