新しい扉を開けて

 お彼岸に入ってから、毎晩不思議な夢を見続けています。最近会っていないいろいろな人たちと、明るく邪心なく、笑ったり話したり、行事をこなしたりしている、なんだか違う空間にいて、楽しく過ごしている感覚が心地よく、目が覚めた時妙な充実感があります。

 雨続きの中、ぽかっと水曜日だけ清々しく空が見え、週末を外してこの日を選んで着物体験に来てくれたインドネシアのママは、日本に留学していてきのう卒業式だったという背の高いイケメンの息子君の案内で時間通りに到着、マスクをして藍染めのようなジャカルタ更紗の素敵なブラウスに黒のパンツ姿でした。日本語が堪能な息子君とつい話し込むとママはちょっと不安そうな顔をするのだけれど、だいぶ涼しくなったのでカラフルな訪問着や小紋を並べて置いたら、パッと手に取ったのは赤い小紋の着物でした。やはり原色が好きなんだとわかって、とても若く見えるママに東南アジアの女の子に人気のダークな赤の振袖を着せ、帯や小物や髪飾りを選んで、マスクを外し口紅をつけたら、まあ本当に美しい熟年振袖姿美女が出来上がりました。

 息子君は途中で用足しに出かけ、一人になったママは夫や私と英語で会話しながらティーセレモニーをしたり、二階へ上がって日本の和室を見たり、単衣の紺の花模様の着物を着て柴又へ行ったのですが、私の”体験”を喜び堪能してくれました。五時に迎えに来てくれた息子君と帰ったママは、翌日とても長いレビューを送ってくれて、全てのことが丁寧に書き込まれた文章を読みながら、そういえばエアビーを始めたころはこんな長いレビューを書いてくれたゲストが多かったことを思い出しました。レビューを読むのにエアビーのサイトを開いて、他の着物体験のサイトを見ていて、あれっと思ったのは、みんなカメラマンが撮影して、結構それがメインになっている傾向です。インスタ映え?私も何回かカメラマンさんに来てもらって写真を撮ってもらったことがあり、特にコロナ禍の中ではなるべく人と接触しないで自分の着物姿を色々アレンジして作る経験は楽しかったのです。

 でも今回ママは私の”体験”を事細かにレビューに書いてくれて、日本の文化や町や参道の人々との触れ合い、宗教は違っても敬意を持って仏教彫刻を見た事、コロナ禍でも各地から寄せられる着物や浴衣、バッグなどをなるべくたくさんお国に持って行ってもらいたいためにするプレゼント、カラフルなお団子や抹茶の美味しさすべてがアメイジングだったと喜んでいる。夫は私がやっていることは道楽だというけれど、コロナ禍で動けなくていろいろ考え悩み、そして今少し動けるようになって感じるのは、今までと同じことをやっていてはいつか崖からころげ落ちてしまう、生き続けるためには先人の知恵や文化やエートスや財産を自分の中に取り込んだうえで、新しいものを作っていかなければならないし、それを求めている人たちが世界中にいるのだということです。こんなに世の中には美しいものがあふれているのに、なぜ目を塞いで醜い争いを続けたり、正義や善や真実を追求し続けないのか。夢の中で感じた温かさ、清々しさ、嬉しさの感覚、それを作れる空間を、新しいドアを開いた向こう側に見つければいいのでしょう。

 今朝早く、振袖を着てお茶を点ててくれたドイツのレナのママから、レビューがドイツ語で届きました。スマホのドイツ語の文章をパソコンに打ち、グーグル検索で日本語に翻訳したら、「非常に情熱的で、本物で、ここでは日本の何かを知ることができる」とあり、そういえば私の体験は「日本の本格的な着物と生活を楽しもう」という題名なのでした。本物の美しさ、五感を震わす何かを味わえれば、自分の可能性が広がり、生きて行くことがもっと楽しくなります。

 今までとは違う外国のゲスト達が増えてきています。どうぞいつでもうちの扉をノックして下さい。私たちはいつもここにいて、あなた方を待っています。