破壊指令

 昨日夕食を食べながらテレビを見ていたら、JAXAが小型固体燃料ロケットを打ち上げたが、異常が発生したので破壊を指令する信号を送ったと報じられていました。「イプシロン」という名のこのロケットは、小型の人工衛星を低コストで打ち上げようとJAXAが開発した全長26mのもので、今回の6号機には、福岡市のベンチャー企業が開発した2つの商業衛星や公募で選ばれた企業や大学の実証実験を行う衛星など、合わせて8つの衛星が搭載されて、需要が高まる小型の人工衛星の打ち上げビジネスへの本格的な参入につながるのか注目されていました。重さ数百キロ以下の小型衛星は10年前は年間数10基の打ち上げだったが、今や年間数千基のペースで需要は右肩上がり。今世界では小型衛星をたくさん打ち上げてどこでもインターネットにつなげたり、地上のインフラや災害の監視も宇宙から行おうというビジネスが盛んで、イプシロンはこの需要を狙って日本が開発したロケットなのです。
 これまで5回の打ち上げでコストダウンも進められ、今回初めて日本のベンチャーから小型衛星2機を受注し、商業打ち上げをまさに実現しようとしていたところ、出鼻をくじかれた格好となった。ベンチャーも小型衛星でインフラ監視などのビジネスを展開しようとしていただけに影響は大きいものがあると言います。

 ニュースを聞いていてはっとしたのが、破壊指令という言葉で、打ち上げたロケットに異常が生じて制御不能になり、どこに飛んでいくかわからなくなった場合、墜落して人や施設などに被害を与えないように空中で爆破する措置で、地上から信号を送り機体に積んだ自爆用の火薬を爆発させるものなのだそうです。人工知能(AI)を供える新しいタイプとして2013年に投入され、五回連続で成功していた矢先での失敗だというけれど、ダメだった時に他のものにダメージを与えないように破壊指令を出すという当たり前のことを、人間が指示したのかAIが指示したのかわからない、でもダメな時はダメだと瞬時に判断して、どんなにコストがかかったものであってもどれだけみんなが苦労して作り上げたものであっても、爆破する、そしてすべての物を守るという差配は、今のおどろおどろしいことばかりしている権力者の能力の中にはないのです。ミサイルをひとの住んでいるところに打ちこんだら、人は死んでしまうでしょう?人を殺したら捕まって牢屋に入れられるでしょう?

 発射されたイプシロンは、途中で機体姿勢の異常が判明して地球周回軌道に衛星を投入できないと判断され、破壊指令が出て爆破されたのですが、沢山の使命を積んで一生懸命飛んでいたロケットは、何でここで爆破されなければならないのかと思っただろう、でもこれほど、現実はシビアで正確で公正なのでした。

 

 今宇宙は人工衛星がたくさん飛び交っていて、1957年にソ連が人類初の人工衛星スプートニクを打ち上げて以来、人類は毎年多くの物体を軌道に投入し、20世紀後半の人工衛星の打ち上げペースは、今より緩やかではあるものの着実に増加傾向にあり、2010年代初期までは年間60~100基程度でした。しかしそれ以降、打ち上げのペースが劇的に上がっており、2020年には114回の打ち上げで約1300基の人工衛星が宇宙に運ばれ、2021年には9月ですでに1400基、後半は更に増えると言われ、衛星を宇宙に送り込む技術の進化は凄まじいものがあります。これら人工衛星の多くは地球の観測やインターネット通信などを目的としていて、地球上のインターネットが行き届いていない地域に衛星インターネット接続サービスを提供するため、2020年だけで約1000基の小型衛星を打ち上げ、さらに今後数年で4万基以上を打ち上げ、地球の低軌道上に「メガコンステレーション2」と呼ばれるシステムを作る計画だとか、アマゾン社の宇宙インターネット計画「プロジェクト・カイパー」、21万基以上の人工衛星を打ち上げそれらを連携させることで世界中にインターネット接続サービスを提供することを目的とするプロジェクトなど、凄まじいばかりの話です。そういえば宇宙旅行へ行こうという旅行勧誘を見たことがありましたっけ。

 しかし当たり前のことですが、人工衛星の大幅な増加に伴い、「宇宙空間の大渋滞」という懸念が現実のものになりつつあり、星の光を遮ったり、宇宙低軌道が混雑してくると、人工衛星同士が衝突する可能性が現実的になるし、宇宙のゴミの懸念も高まります。人工衛星の数を減らす、明るさを抑える、人工衛星の位置を共有する、改良された画像ソフトの開発をサポートするなど考えているそうです。

 ほんの十年前まで「宇宙の民主化」は未達成の目標だったけれど、しかし今や105か国以上の国が少なくとも1基の人工衛星を宇宙に有し、学生たちのプロジェクトも宇宙ステーションで行われ、革新的な技術進歩が遂げられているけれど、ルールの更新、新しいルール設定、宇宙に及ぼす影響の軽減策を検討し、ビジネス、科学、人類の努力によってサステナブルな解決策を見つけようとしているという2年前の記事を読みました。でも、うじゃうじゃ地球の周りをまわっている人工衛星によって天気が良く分かったとしても、今まであり得ないような異常気象が続き、豪雨、洪水、山火事、日照りなどで世界中が混乱しているではないか、そしてウクライナを始めイランなど、紛争で亡くなる方も多い、このところ毎日空襲警報が発令されて、地下鉄の中に避難しようとしているウクライナの女性が、「ここはヨーロッパなのよ」と悲痛な顔で話している姿を見ていると、悪しき権力者たちが宇宙の支配権まで求めて争う日も近いのではないかと思えます。そんな時、誰が破壊指令を出すのか。

 

 今世界ではあらゆるところで破壊と再生が起こっていると言います。愛のない場所を破壊して、愛のある場所を創造して行く、愛のない空間、愛のない組織、愛のない関係性は容赦なく滅ぼされてしまうけれど、たとえ周りの世界がどうであれ、自分自身が愛を能動的に創造していけばいい、誰かに愛を与えることと、自分自身に愛を与えることは、宇宙にとってもありがたいことで、神聖な宇宙の音を自分の内側に響かせる…

 破壊指令というのは、辛くて大変なことでしょうが、その根本には愛がある気がしてならないのです。村上春樹が混乱に満ちた世界から抜け出すには、これまで誰も語ったことのない新しい言葉で、自分が心から信じられる物語を作っていくことしかないと言っていたけれど、人々の行き場のない怒りとか苦悩とかそういうものを何か表現で肩代わり出来て、自分の幸せではないかも知れないものが巡り巡って自分の幸せになるという感覚、自分ではない誰かの感情を掬いあげ取り込んでいくことが一番の救いになっていく、鬼滅の刃の炭治郎を思い出します。古今東西、いろんな分野の人達が悩み苦しみもがきながら新しい優れたものを作り上げ、それを糧に次の時代の人達がまた新しい軌跡を創り出していくのでしょう。

 

 両目がくっきり見えるようになりました。自分の中の悪しきものに破壊指令を出し、新しい言葉を紡ぎ出していきます。