結婚式の前撮り

 娘はずいぶん前からいろいろな撮影現場に行くことが多くて、フランスの子供向けファション雑誌の特集で外国人の子供に浴衣を着せたり、最近は振袖の前撮りやモデルさんの着物姿の撮影に参加している話を聞き、写真を送ってもらったりしていましたが、私もとうとう前撮り写真を撮る現場に行くことができました。

 かなり以前に娘が着付け師の講習会で振袖ドレスという着付けを習い、自分の写真集に使ったりクラシックの歌手のコンサートでお着せしたりしていて、私も見様見真似で子供ミュージカルに出演していたジャズシンガーの女性にアレンジした振袖ドレスを着せに、何回も会場に通ったことがありました。今回はどうしても結婚式の前撮り写真に振袖ドレスを着たいけれど、東京では着せてくれる方がいないと探していたあるお嬢さんの知り合いの方を通じて、私のところへ依頼が来たのです。最近ゲストの写真を撮るときのポージングに行き詰っていたし、愛犬も参加すると聞いてどんな感じになるか楽しみで、依頼者の着付け師の方に浅草まで連れて行ってもらい、初めてスタジオに入り見学して、背景のセッティングとか和室のしつらえとか、アジサイの植え込みとか面白く、カメラマンの後ろから画面を見ていて、最近のカメラの性能は良いし、凄いなと思って感心していました。

 娘から、新しいやり方の着付けは若い感性を持っている人がやらないと、着せるお嬢さんが悲しそうな顔をすると聞いていたので、四十代の依頼者の着付け師さんにやり方をレクチャーして私は補助に回り、気楽に見ていたのですが、自分が手掛けた帯結びなどには最後まで心配が付きまとい、彼女はしきりに直しに入っていて、自分でやると本当に気になるものだと改めて思っていました。技術をしっかり持っている若い感覚の着付け師さんがこれから必要だと娘が言っているし、振袖を着せるのに比べ格段に楽なので、あとはアレンジだと思うのですが、大型犬のはじめ君も入ってジャンプしたり抱っこしたり様々なシチュエーションを撮りながら、ニコニコ笑っていたお嬢さんが犬を扱う時には鋭い厳しい顔になってとてもインパクトがあり、今どきの若い子というのもたいしたものだと見直してしまいました。動物が好きで、犬が駆け回れる庭と、年取って介護になる動物が温かく過ごせるような、一階に広いリビングがある家を探しているとのこと、自分達の幸せをただ考えているのでなく、動物たちに無償の愛情を注げる気持ちが、若い二人の絆をより深めていくのかなと思っています。

 

 昨日はとても寒く、風が冷たかったけれど、ブラジルのサンパウロに住む女の子が3人30分早く来て、カラフルな振袖を好むので、いつも着物をたくさん下さる方のお孫さん用に作った紫と赤の振袖を着せ、もう一人は近くのお煎餅屋さんから戴いた金地に鶴がたくさん飛んでいる個性的な振袖を選びました。みんな170㎝近くある高身長で、孫ちゃんの振袖は小柄用なので、ちょうど見学に来ていて昨日も一緒だった着付け師さんが二人着付けて下さり、横目で私は彼女を見ながらいまだ先生と二人で振袖着付けの練習に明け暮れている方のレベルは違うなと焦りつつ、おはしょりも出ないけれど何とか完成、伊達襟が乱れるし気になるところだらけなのですが仕方ないし、外が寒いのでミンクやシルバーフォックスのショールをかけて、(毛皮だけで何十万円!です)出かけました。ジーパンは脱いでもらったから余計寒いだろうし、今までのゲストのように延々と写真を撮り続けることもなく、お寺でも参拝は拒否され、あれっと思いながら早々うちへ帰ってティーセレモニーをみんなにしてもらい、羽織りや道行コート、頂き物のシュークリームやリンゴも差し上げて、体験を終えたのだけれど、久しぶりにレビューをもらうのが怖い、という感覚になりました。

 手伝ってもらったからこそできた着付けなのだけれど、私の気持ちが全くついていかなかったから、三人の心が全く分からないままに終わってしまったことが悔やまれます。お寺に行くと、成人式の前撮り写真を撮った後の振袖姿のお嬢さんがお母さんと来ていて、直立して写真を撮っている姿を見かけることがあり、どんな帯結びかなと見るのだけれど、着物の柄も帯もトータルな姿も、そして何よりお顔が目に入らないのです。何で!と思うのだけれど、これが成人式というものの現実のような気がしています。

 

 娘が着物デザイナーのキサブローさんが雑誌に出ているよとラインしてくれたので、早速買いに行きました。天海祐希に似たすっきりしたイケメンのキサブローさんは、デニム生地を使って葛飾北斎の「神奈川沖波裏」のうねる波の力強さをイメージした自作の着物を 着て清々しくカッコよく、今は性を超えて自由に、自身が望むスタイルで生活していて、海外出張などのフリータイムに、自分でアレンジした着物で街を歩くと、「ビューティフル」「ナイス」と声がかかり、洋服ではこんな経験はなくて、着物のポテンシャルを感じたそうです。先人たちが確立した伝統文化に敬意を表しながら、今の時代に沿った着物とは何かを考え、それを未来へつなげていきたいと言うキサブローさんは、技術を磨き、着物をベースとした自己表現としての作品作りも初め、色んな困難を経て美しくしなやかで魂を持ち生命が吹き込まれた着物の物語を作り続けています。

 ブラジルの女の子たちが寒い着物体験でこりごりしているのではないかと心配で「寒かったでしょう、ごめんね」とポルトガル語で翻訳してメールしたら、「寒さも最高!」と返事が来て、温かいレビューも送ってくれました。なんて優しい女の子たちでしょう!ホッとしていたら、双子の女の子と大人四人の予約が入り、七五三の女の子用を双子ちゃんに着せようと考えていると、一人は男の子の恰好が好きだから羽織袴がいいと返事してきました。ジェンダーフリーはここにも現れているのです。二時間勝負とのこと、プロレスの試合見たい、クリスマスイブもクリスマスも外国人が来ます。体に気を付けて、何とか今年を乗り切ります。