二時間一本勝負

 年末が近づいてきてから、変わった問い合わせがあり、二時間で大人4人と双子の6歳の女の子に着物を着せて近くの神社へ行けるかというもので、双子ちゃんは一人は男の子の着物を着たいというので、七五三用の青い紬の着物の腰揚げを下ろして、見事な刺繍の付いたお宮参り用の熨斗目を羽織のようにしてみたらなかなかかっこよく、鬼滅の刃の煉獄さんのようになりました。準備して待っていて、二時少し過ぎて現れたゲスト達は民族色豊かで、インド人のスリムな旦那さんとふっくらしたカナダ人の奥さん、双子の女の子、それに南米のニット帽をかぶって目のくりくりしたエクアドルの可愛い女性が二人で、それぞれ名前を名乗られたけれどまず覚えられず、背丈が違う双子ちゃんのどっちに男物を着せるのかと思っていたら、ママは問い合わせのことはすっかり忘れていて、二人とも女の子の着物がいいと言い出し、細かい小物が足りずに私は焦りました。エクアドルの二人は教え子で、パパとママは先生だとか、場を仕切る感覚が教師っぽくて、子供を飽きさせないようたくさん人形や羽子板など並べておいたけれどまったく関心を示さず、次々私が着せていってパパが髪飾りを選び、なんと着物の衿にブローチまで付けて、あれあれと思いつつとにかく私は必死であと三人着付け、ジーパンは履いたまま、ママは縞のTシャツも脱がないし、かなりふっくらしていて非常に厳しい仕上がりになりました。あと15分しかないとママがいい、双子ちゃんにはおとなものの別珍のショートコートを着せ近くの神社に行き、静かでお天気も良くてたくさん写真を撮って帰ろうとしたら、エクアドルの二人が4時に東京駅で日本の友達と待ち合わせしていると言い出し、急いで帰って行きました。聞いていない・・何か今日はそういうちぐはぐさが目立つ体験なのですが、パパとママは意に介さず、ゆっくり帰ってきてプレゼントの羽織を選び双子ちゃんとエクアドル組は好きな髪飾りを付けて帰りました。家の中ではマスクを取らず、外でだけ外していたから色々お菓子を並べて置いたけれど食べられず、持って行っていいよと双子ちゃんに言ったら七五三の用の小さいバッグにもたくさんお菓子を詰め込んでいて、それを全部袋に入れ、テーブルにあったもの全部持って行きました。

 パパとママはとても素晴らしい体験をしたと言ってくれたけれど、私はいっぱいいっぱいでヒーヒーしながら、でも全部自分でやって、いつものごとくの世間話をしながら相手の気持ちを探りだすということをやらないと、私の体験は成り立たないと改めて感じています。神社で写真を撮っていたら自転車で帰ってきた家族の方が見てらしたのでご挨拶したら、ご自分の娘さんがオーストラリアで暮らしていて、こういうことをしなかったと言っていらして、外国人が日本の文化を味わうということは、自分の感情を増やすことだし、それに関わっている私は彼らを見ていて返って日本人の特性がわかる時があると思うのです。

 クリスマスイブとクリスマスにゲストを迎えて、今年の仕事は終了です。はるばるこんな辺鄙な所まで来て下さるゲストに感謝しながら、”花は咲く”という歌の歌詞を思い出しました。

 「花は 花は 花は咲く  私は何を残しただろう」

 ”私”はどうでもいい。  彼らに何が残っただろう。 着物たちは何を残してくれただろう。

 多分、文化が何かを残してくれたのです。これまで来たたくさんのゲストのことを思い出します。彼らはまぎれもなく、文化を受け止めてくれたのです。