新時代

 このところ強い寒気団が日本列島を覆って居て、本当に寒い日が続きます。さすがに予約も三月や四月の分は入るけれど、今週はゲストも来ない状態で、あまりに寒くて布団に入って本を読んで休息しています。義母の容態も落ち着いて回復に向かっているようで、それでも高齢だから油断はできませんが、二月には施設に戻れると聞きほっとしていたら、週末の土曜日に突然予約が入りました。あまりに寒くて、暖かいインドネシアから来ているゲストはつらいだろうと思っていたら、一時ちょっと前に田原町からやって来た150㎝の小柄なGigiちゃんは、はじけるような明るい27歳の女の子で、職業は何とカメラマン、一人旅で東京を楽しみ明日帰るとのことでした。

 入ってきてからずっと歌うようにしゃべりながらすべての物に驚いて写メを撮っていましたが、カウンターに置いてあったキツネの可愛いぬいぐるみを見て歓声をあげ、心を惹かれていました。ジャカルタからちょっと離れた町に住むGigiちゃんは一人っ子で、16歳から独立して暮らしているとのこと、一人旅だしコンビニで食事も済ませているというけれど、並べて置いたお菓子やお煎餅をつまみながら外国人に人気の紺地の小紋を選んで、髪の毛も簡単にアップにして簪と櫛を差して、可愛い着物姿になりました。いつも笑いながらポーズをとりはしゃいでいる彼女の写真を撮るとき、相手はプロカメラマンだからこちらも緊張するのですが、考えて見たらいつもは彼女は撮るばかりで撮られることはないから妙に照れくさい様で、だからすぐ笑ってしまうのです。小ぶりの刀を持ってポージングしてもらってから私はふと気がついて、ぬいぐるみのキツネ君をカウンターから持ってきてGigi ちゃんに渡すと、彼女は何と肩に載せて唇を寄せるのです。これは宮崎アニメの「風の谷のナウシカ」でナウシカの肩にいつも乗っているキツネリスのテトだと思い、その親密感が心に残りました。

 寒いけれど少し日が差してきたのでコートを着て白いショールを巻いて柴又へ出かけましたが、電車に乗っても窓の外の風景を楽しんだりして、今までのゲストとは行動が少し違うのだけれど、一人暮らしをしていて一人旅でいるから、やはり色々話したり写真を撮ってもらうのが嬉しい様で、いろいろなことにストレートに興味を示す彼女は、お寺で買った絵馬に言葉を綴りカトリックだけれど仏像を拝んでいました。帰りにお団子と焼き鳥を買い、うちで日本酒を飲みティーセレモニーをしてから、二階で鎧や神棚仏壇障子を見て、そして箪笥の抽斗などに驚きながら体験を終了、抹茶が好きなようで棗に残ったのを缶に入れて渡し、可愛い羽織のおみやげと一緒に袋に入れて帰るときに、私はふと気がついてキツネ君も持って行ってもらうことにしました。このキツネ君に魅かれた彼女の気持ちは何だったのかわからないけれど、あとで送ってくれたレビューに、うちにいた時ずっとファミリーのように感じたとありました。最近はそれぞれのゲストの肖像を描くような気持ちでブログを書くのですが、明るくてはっちゃけていたGigiちゃんの肩には、私の家にずっとあったキツネ君がこれからもずっと乗っかっているのです。

 ゲストに着物を着せながら「音楽は何が好き?お気に入りの日本の歌手は誰?」と聞くと、このところ「あいみょん」「YOASOBI」と返ってくるようになったのですが、ちゃんと私は知っています。藤井風、Vaundy、millet、Aimer、ウタ…みんな最近覚えた若者たちだけれど、昔の苦節何年という下積みを経て栄光を掴んだ演歌歌手の流れでなく、自分達で作ってユーチューブでヒットしたリ認められたりしているグループなどで、歌詞にしても複雑な内面やどうやって自分の気持ちを鼓舞していくかというものだったりして、限りなく深いのです。コロナ前はフィリピンから来た中年夫婦がカラオケでテレサテンや八代亜紀を歌うという話で帰り道盛り上がっていたのだから、なんだか隔世の感があるのですが、パンデミック後、そしてウクライナ紛争が泥沼化し、あちこちで反政府デモが繰り広げられている今、歌われている歌は違う世界のものだし、世界の若者たちがその内容を分かり合えるということを私はもっと早くに知るべきだったと思うのです。といいつつも、なかなか歌詞が頭に入ってこないし、夫は完全に拒絶反応をしめすのですが、年末のNHK紅白をじっくり見ていて、若い歌手たちが自分の気持ちや心や考えをはっきり歌う時代が来ていること、すぐ世界中に発信できること、言葉や民族や考え方の違いを超えて、彼らの魂が見えていることに驚きました。頭を高く結い上げ華やかな着物姿の演歌歌手の隣で、ジャージにダボダボのズボン履いて楽しそうに歌っている若いひとたちを、うちに来る外国人のゲストは大好きなんだ、そう、いまは新しい時代なのです。