フィリピンのジョアンナ

 土日に連続してゲストが来たので、「休日まで俺を働かせる気か」と夫は機嫌が悪く、私は(高齢者は毎日が日曜日なのに…)と思うけれど黙っていました。京王線の幡ヶ谷から一時間以上かけてきたフィリピンのファミリー四人は、途中の駅で迷ったようで30分遅れて到着、小柄なパパとお兄ちゃんは伝統的な着物とデニム着物にハットを被せ、会計士でボスのママにはピンクの訪問着、かなりふっくらしている娘さんのジョアンナにはこの前娘に持ってきてもらった身幅のたっぷりした振袖を着てもらいました。

 先に着付けたパパはずっとしゃべり続け、癖のあるフィリピン英語で夫は苦戦しながら相手をして、私はジョアンナの髪の毛もアップにして簪を付けて終了、急いで柴又へ行きましたが女性陣はマスクを忘れ、大きな扇で口元を隠して平安時代の宮中の女性のようで、なんだか優雅です。お寺の境内に入ってびっくりしたのが本堂の前で背の高いごつい感じの沢山の男性外国人たちが記念写真を撮っていて、傍にいた背広姿の日本人の若い男性に聞いたらドイツの国会議員が日本視察に来てここに立ち寄ったとのこと、そういえばコロナ前にハンガリーの大統領が来て、庭園も入れなかったことを思い出しましたが、今回は一室で会議?をするとか、無表情で境内に佇む彼らからは何の感情も読み取れず、話しかけることすらできなくて、普通の訪日外国人とは異質の妙な空気感を感じてしまいました。

 案内する日本人も真面目そうで語学は達者なのでしょうが、目に生気がなく、こんな辺鄙な所に来てしまったと思う暇もないのかもしれませんが、そういえばテレビで根津神社を芸能人が散策する番組があって、エアビーでも根津をテリトリーとする体験が好評なので興味深々で見入ってしまいました。神社が広く、色彩が鮮やかで伏見稲荷のように朱塗りの鳥居が並んでいるところもあり、池も広くて確かにフォトジェニックで、だからたくさんの外国人が喜ぶのでしょう。初めは凄いなあと感心して見ていたのですが、達者な英語力を持ち海外で働き旅行も多くしているようなホストで、うちに来るゲスト達が初めて会っても話が盛り上がるような会話力を持っていないと時間が続かない事に気がつき、私の体験が4時間なのは長いとエアビーの会社で言われているけれど、これでも時間が足りない時すらあるのは何でだろうと考えてしまいました。

 うちに来た時にお菓子を食べてもらうのはランチを食べないできて、あとで空腹だったと言われるケースがあるからで、着物を選び着付け、写真を撮って柴又へいき庭園や仏像彫刻を見て文化や宗教について話し、参道の店の方々と会話しながらお団子を買い、うちに帰ってティーセレモニーをして、最後にギフトをあげるというこの体験を何百回もなぜ続けているのか、それでも新しい気づきが毎回あるのです。

 フィリピンのママはいろいろなことにとても喜んでくれて、帰り際駅の近くのお店で焼きそばをテイクアウトし私と夫の分まで買ってくれ、家へ帰って着物を脱いでみんなが焼きそばを食べている前で私は抹茶を点て、皆に作法通り飲んでもらったのですが、振袖を着て疲れたり寒かったせいかジョアンナが頭が痛くなって長椅子で30分横たわり、その間スマホの写真をみんなが見せてくれて、パパとママの若い時のスナップや兄妹の小さい頃の写真、飼っている猫、住まいや事務所まで説明してくれるのを聞きながら、そういえば今まで来たフィリピンの家族は皆本当に仲が良かったし、来るときもパパとママは手をつないでいましたっけ、そういう国民性だけれど植民地化されていたからカトリックだし英語を話すし、若い頃サウジアラビアへ二人で行ったというので無知な私は感心していたら後で夫がフィリピンは貧しいから多くの人が出稼ぎにいったんだと教えてくれました。ダバオに工場を持っている義母の甥御さんが日本に観光旅行に来られるのは本当に裕福な人たちだと言っているのだけれど、ママがやり手でここまで頑張ってきて、でも子供たちは結婚していないし、なかなかうまくいかないものです。最後に私にビジネス頑張ってねと手を振って別れ、頭痛も治ったジョアンナも笑顔を見せたのだけれど、翌日掃除をしていたら着物のバッグにむき出しのお札が4130円入っていることに気がつき、幡ヶ谷から取りに来てもらうのも大変だから私が新宿辺りまで出て行って渡すと連絡しながら、まあまあ手間のかかる女の子だと苦笑してしまいました。

 結局ジョアンナがうちまで撮りに来ることになったのだけれど、また頭痛がして日にちを伸ばしてくれとあり、最後に”Sweetie mama!"と添えられていました。忍耐力が必要?いや、そうではない、こういうことに慣れて一つずつ対処していくことがこれからもっと必要となる気がしています。やることをやればいいのです。私の生き方が普通でないから、なんとなく普通でない人たちがやって来るのですが、世界は、世の中はもっと普通でなくなっていて、今までと同じことさえしていけば良い人生が送れるという確証がない、最近スーパーで買い物をしているとあらゆるものが値上がりしているし、トルコでは大地震が起きるし、妙なことばかり続いています。危険な空気を感じながら、気を付けて、前に進んで行きます。