ミケランジェロ

 三日間連続してゲストが来ると、全く頭がこんがらがって、誰と誰が一緒だったか、どこの国の方だったか、わからなくなります。日曜日に来たオランダからの三人のゲストはインパクトが強く、ブラジル人のお母さんを持つふっくらしたロクサンヌがリーダーのようだけれど、心もとないボーイフレンドのダニーとヤンキーなイリスはこの体験に何を求めているのか全く分からずに、一緒になったアメリカからの若い夫婦の奥様のテンションの高さに煽られながら柴又へ行くと、ダニーは興奮して石塔や熊手の写真を撮るのだけれど、イリスは写真を撮られるのも飽きてすぐ座り込むので聞くと、トイレに行きたいと言い出し、帰ってはやく着物を脱ぎたいようです。

 若夫婦の奥様はアフリカがオリジンのハイテンションな学校の先生で、御朱印帳が買いたくてお寺に戻り、カードしか持っていないダニーはダルマが欲しくてATMのある場所を聞くし、ロクサンヌは自分の写真をあとの二人にとってもらえないみたいでちょっと浮いているし、まあまあ混乱の極みの中で、何とイリスはタバコが吸いたくてたまらないことがわかりました。もう団子もいらない、早く帰りたいイリスのために発車間際の電車に駆け込み、家に帰ってすぐ着物を脱がせ、缶コーヒーを買って夫と二人で外で美味しそうに煙草を吸う姿を見ながら、あとのメンバーはお酒とつまみで乾杯してからティーセレモニーをしました。イリスはやっと落ち着いてみんなの写真を撮り始め、ダニーも上手にお茶を点ててくれて、とりあえず終了、私にとっては最低から二つ目くらいのホスティングとなってしまい、気持ちは落ち込むし、タバコは初めに吸ってもらえばよかった、お金も持って行ってねと言えばよかった、と後悔ばかり蘇り、電車に乗るために着物姿で駆けさせてしまったロクサンヌに謝りのメールを送りました。

 おととい来たアメリカのヤングカップルは午前中京都の伏見稲荷に行ってから新幹線で東京に着てうちに来るというハードスケジュールで、東京駅で道に迷い一時間半遅れて到着、一時少し前に来た韓国人の女の子は着物を着たまま夜に渋谷に行きたいというし、何で最近はこんなにごった返すのかと私は右往左往しながらため息が出ました。黒い単衣の紬を着た大柄なRosaちゃんは先に抹茶も飲み、写真もたくさん撮って、あとはお寺へ行きたいというのですが、やっと到着したカップルに急いで着物を着せ、かなりふっくらしている女の子はひで也工房のアザミの浴衣にギラヘコを締め、三時過ぎに電車に乗ることができ、ほっとしていろいろ若いネイサンに何で京都からこんな辺鄙な所まで来るのか聞いたら、レビューが良かったからだとのことでした。

 彼のプロフィール写真がベニスの風景をバックにしているのと、苗字がMarcelloでイタリアっぽかったので、私はイタリア人だと思い込み、連れの女の子に何か国語話せるか聞いたら、英語とスペイン語だというのでネイサンに聞くとアメリカ人だと言われ、もうもう混乱続きでした。どうして京都からここへ来るのと嘆きながら水曜日で空いている帝釈天の中を歩き、桜は終わったけれどつつじや他の花々が咲き乱れて、しょっちゅう来ている私ですらびっくりするほど綺麗なのです。Rosaちゃんの写真は私がたくさん撮り、ネイサンも立派なカメラで写真を撮り合っているので、とりあえず京都に負けない?ところもあるかなと思ったけれど、伏見稲荷や金閣寺の写真をネイサンに電車の中で見せてもらったから、とにかく日本には素晴らしい所がたくさんある、ということが私によくわかりました。

 仏教彫刻のところで好きな美術家を聞くと、ミケランジェロだと答えたネイサンはアニメにも興味がなく、5人兄妹の長男で医療関係の学校に通っていて、鼻が高くて痩せていて、微妙なニュアンスのある子でした。そういえばコロナ後一人で来る男の子のタイプかもしれず、英語でゲスト達と限りなく話すのを聞きながら、やはり私はこの子たちは何かを探してここへ来ている気がするのです。言葉ではないなにか。私はそれを言葉で表すことはできない。だけれど、何かのニュアンスを、私は感じ取りたい、ネイサンの言ったミケランジェロという言葉が、強く私の心に残っています。