指輪 2024年3月17日

 三月前半は天気が悪く寒い日が多くて、これで柴又へ行くのはきついなと思っていたら、予約があまり入らず、のんびりした日々を送っていました。でもお彼岸に入ると暖かくなり、突然の予約をしてくるパターンが増えてきます。昨日はテネシーでエアビーの民泊ホテルを複数所有している36歳の台湾人の息子さんがボストンでレストランを経営する両親のために着物体験を予約してきて、ママのメイクをしてもらえるかと、朝のメールで問い合わせてきました。

 それは無理と断りながらこれまでの経験で、意外とプロがやったヘアスタイルは同じ雰囲気になるから、自分でやった方がいいと思うのです。これまで外を歩いていて絶賛されたゲスト達は皆自分でヘアメイクをしていたし、特に外国人の場合は髪も目の色も骨格も様々で、それを日本人がパターン化したスタイルにしてしまうと、本人の良さが出ない気がします。

 現れたママは短い髪にパーマをかけていて、目が細いのでヘアアクセサリーは前に垂れ下がるのがいいと言い出し、チュールの付いたアクセサリーを付けたり、イヤリングが欲しいと言ったり、呆れたパパは大きなリボンをママの頭のてっぺんに付けて笑っています。優しい息子君は辟易しながら一生懸命写真を撮り、口をとがらせてキスしてみたりする両親も、異国での異体験を楽しもうとしています。男性二人と60代のママだから着付けも大変ではないのだけれど、ママは疲れるでしょうと気を使ってくれ、銘仙の羽織を付けて日曜日で混んでいる柴又へ向かい、たくさん写真を撮りました。台湾人だから漢字を読めるし仏教の知識もあって、お寺の中を興味深く見ていたパパが、彫刻は何の木に彫られているかと翻訳機を使って質問してきました。けやきの木なのだけれど、それの英語が表示されずKeyakiとしか出ないで困っていると、パパが中国語に翻訳して画像を出してくれました。けやきとは「Japanese zelkova」だと今調べて分かったのですが、今日の親子の質問は想定外のものが多く、かなり苦戦したのと、ママの趣味趣向がちょっと特殊で、抹茶は飲まない、おはぎは一口食べて顔をしかめ、堅苦しい作法は嫌だけれど、相手への気遣いは人一倍あるのです。帰り道にあるパチンコハウスの説明をしていると、パパがニコニコ笑いながらママは若い頃そういうところに入り浸りだったと言うので、私はママはヤンキーだったと気がつきました。だから優しいんだ…

 翌日はクルーズに乗って釜山へ行くとのこと、その前にアリナミンを買いたいと画像を出して、何処で買えるか聞かれたので、近くのイトーヨーカドーを教え、堅くママとハグして別れました。このところアジア系のゲストに「なぜ結婚指輪をしていないのか?」と聞かれたことが何回かあり、今日は夫はゴルフに行って朝からいないので、タンスからしまいっぱなしの指輪を出し、私のは小さいので夫のものをしたらぴったり合います。ずっとはめたまま着付けをしたりお茶を点てたりしていると、意識がそこに向き、妙に新鮮です。パソコンを打っていても指先に目が行き、そうすると背筋が伸びていくのも不思議です。いろいろなことが変わっていくのだから、いろいろなことを変えなくてはいけないと思っていたら、法事の次の日に来るオーストラリアのゲストから、メンバーのサイズを知らせてきました。180㎝108㌔の57歳のママ、163㎝85㌔の73歳の義母、172㎝95㌔の56歳のパパ、それに156㎝160㌔の24歳の姪ごさんです。史上最高体重の姪御さんはlittle mentally slowとあります。着物はどう考えても無理だと思ったけれど、インドから送られてきた高品質のサリーがあることを思い出し、フリーサイズだからそれをまとってもらうことができるかもしれない、少しでも糸口があれば、何とか進んで行けると信じていないと、この仕事は続けられません。

 夫に言ったらムリムリと片づけられるのは目に見えているけれど、私は何とかしようと指輪を見ながら考えています。何かの力が宿ってくれることを心から望みましょう。