芸大大学院卒業式袴着付け

 エアビーの民泊を長いことやっていらっしゃる方のゲストに、オプションで着物をお着せして長いことになります。イスラエル、中国、マレーシア、オーストラリアなど様々な国の方を連れてきて下さって、ご自分達で車で柴又へ連れて行くので、私の負担はかなりへるのですが、なかなか帰ってこないとそれはそれで気を揉むのです。

 卒業式のシーズンですが、彼らの長年の知り合いであるオーストリアのユリアの芸大大学院の卒業式の着付けを頼まれ、何といっても173㎝なので合う袴があるか心配していました。そして当日は雨、車で大学まで連れて行ってもらうとのこと、スカイブルーの訪問着に紺の袴を付け、オーストリアから家族で来ているお姉ちゃんに綺麗に髪の毛を結ってもらい、素敵な姿に仕上がりました。私がプレゼントした編み上げブーツを履いて、車に乗り込んだ彼女を見送りながら、貸してくれた大学院美術研究科修士課程の論文要旨を見ていると、彼女のは「西洋で用いられた茶色のインクについて」ー分光分析による識別と修復材料の影響―とあり、勿論全部日本語で書かれています。あとは日本人や中国人の学友の論文もあって、これは化学だなと思いながらあと三年日本で勉強して博士課程まで取るというユリアは、将来は大学で教える教授になるのかも知れない、そういえばゲストで来た中国の美術大で勉強しているという大柄で内気な女の子は日本の画家加山又造が好きで、将来は中国の大学で教えたいと言いながら、スマホに収められた彼女の美しくて煌びやかな作品を見せてくれたことがありました。

 語弊があるかもしれないけれど、外国人のゲスト達は大学でしっかり勉強している、オリジナリティを持って自分が何をしたいのか考え努力しています。それに引き替え日本の今のマスコミや一部の新聞雑誌、テレビ番組などの低俗化、倫理観道徳観、そして危機意識のなさを見ていると、上層部は大学で何を学んできたのかとあきれ果ててしまいます。でもそんなことを言っている暇はありません。修士論文を読み、使える話題はピックアップし、天下の芸大の大学院ではどんな勉学をしているのかインプットしておきます。

 このところゲストがたくさんお土産を持って来てくれますが、ユリアもオーストリアのチョコレート、四か国語表記があるアルプスのカレンダー、ミニジャムセットをプレゼントしてくれました。義母の四十九日も近づいて、7つ目の薬師如来のろうそくに火を灯し、毎日拝んでいます。現世と離れる時が近づいてきたけれど、まだ闇の中を彷徨う日が続くと書かれているのを読みながら、今日来るゲストの支度をします。二日間続いた雨もやっと上がりました。