76歳のセイラ 2023年10月

コロナ前にカナダから来た60代と70代の姉妹が、桜の咲き乱れる江戸川の土手でうしろ向きに写っている写真を、私はよくゲストに見せます。着物はこんなにも着ている人を若く見せる!というアピールなのだけれど、フィンランドから40代の女性と70代の叔母さんが予約してきた時、普通に着物を着せられると気軽に考えていました。定刻少し前に現れたブロンドのショートカットのミンナと花模様のワンピースのセイラと挨拶をした時、76歳だというセイラの背中が少し丸くて、髪もちょっとぼさぼさ、旦那さんが亡くなって一人暮らしであまり笑わず、フィンランド語しか話さない、ミンナが通訳してくれているけれど、私とは直接コミュニケーションは撮れない、難しいケースだと気が付きました。まだ気候は涼しくならないから、袷を着て柴又を歩くことができるかミンナに聞いても、すべてが初めての事だから見当がつかないと言われ、それはそうだと思って、とにかく着物選びを始めました。

 セイラは青い花の咲き乱れる付け下げに、ピンクに白地の蝶の袋帯を選び、ミンナは真っ赤な小紋に白地の袋帯、短めのセイラの髪を何とかアップにして華やかなかんざしや髪飾りを付け、口紅も付けたら、まあとても素敵な着物姿になりました。鏡で自分の姿を見て喜んでいるセイラを横目で見ながら、ミンナに赤の小紋を着せ、こちらはカチューシャをして赤い花をつけ、とても可愛らしく、とにかく赤と青の着物のコントラストが見事なのです。

 青はフィンランドの国旗、赤は日本の国旗を表しているから選んだと言いながら喜んでいる二人を見ていて、このまま疲れないうちに柴又へ行ってしまおうと思って、履きやすい大きい草履を出して、二時過ぎに出かけました。紐をたくさん使い、帯も締めているから、セイラは大丈夫かといつも心配していたけれど、意外とスタスタ歩き、元気そうです。あまり笑わないタイプなので、写真も連続して何枚も撮り、初めちょっと怖い顔でいたのがふっと笑う瞬間を狙い、ずいぶん撮ったのだけれど、青い華やかな着物とアップにした髪のセイラはとても綺麗でした。私がお寺の説明をすると、ミンナはしっかり聞いてくれてそれをフィンランド語で翻訳してくれ、御朱印帳も買って墨で書いてもらい、帰り道の参道では漬物の店でいろいろ試食し、栗と紫芋のお団子を買って四時ごろ帰宅、様子を見ながらティーセレモニーをして終了、セイラはそんなに疲れなかったとのことでした。

 着物を脱がせてワンピースを着た時、セイラはああ楽になったというのかと思ったら、着物を着ている時のいろいろな支えとなるものがなくなって、心もとないみたいなことを言っていて、そういえばポーランドの女の子が、腰が痛かったのが帯を締めていると楽だったとレビューに書いていたことを思い出し、セイラもフィンランドで着物を簡単に着て帯を締めていたら、体がしゃんとするのかしらと私は考えます。セイラは読書が好きで、日本の作家では村上春樹を読むとミンナが教えてくれ、直接セイラと話ができたら良かったのにと思ったけれど、最後別れる時セイラは強くハグしてきて、私は楽しかったなと改めて感じていました。

 

 フィンランドのゲストはこれで20人位になります。質実剛健、寒い長い冬の中で暮らすから、耐え忍ぶ気質だというけれど、最近は外国人も多く移住してきているようで、イタリア人のガエタオもフィンランド人の奥さんと結婚して暮らしているのでした。みんな元気かしら。行って見たいけれど、フィンランドは広すぎます。