Worth every penny  2023年12月8日

 水曜日に来たリトアニア生まれの24歳のキャロルから、レビューが来ました。男の子だし、面倒くさくてレビューなど書かないタイプだと思っていたから、夜の十時に届いたそれを見て、なんだかおかしくて、笑ってしまいました。両親とロンドンに住む一人っ子の彼は女友達とモロッコや日本を旅している子供っぽい男の子で、かまいやすいタイプですが、文章の出だしが“Worth every penny”(とても価値のある)で、そんな言い回しがあるのだと私は驚きました。

おばあちゃんはポーランド人で、おじいちゃんはリトアニアなのでしょうか、バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアは寒そうな国です。前にリトアニア出身で今はUSAに住み、ハワイ生まれの日系ハーフの恵ちゃんと結婚した2mの身長の看護師の無口な男の子にお茶の点て方を教えると、あまりにすらすらできるので、茶箱をプレゼントしたことがありますが、リトアニアは寒くて暗くて、人々はアルコールを好むけれど産業はあまり発展しないと読んだことがあります。

私は日本語で文章を綴るけれど、ゲスト達は自分の国の言葉、自分が住んでいる国の言葉でレビューを書いてくれる。500以上のレビューをもらって読んでいて、このWorth every penny という言葉は初めて見ました。ペニーとは英国の補助通貨単位で、1ペニーは1ポンドの100分の1で、複数形はpenceです。月と6ペンスと言うモームの小説がありましたっけ。ユーロ導入以前は、アイルランドの補助貨幣通過でもありました。USAでは1セント硬貨ですが、最近の通貨事情はどうも複雑でわかりにくいのです。月と6ペンスにはゴーギャンらしき画家も現れていますが、サイトを見ていたらゴーギャンの有名な絵の下に「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」とあって、この言葉はキャロルに当てはまるような気がしてきました。自分のオリジンは何でしょうか。どこから来て、何処へ行くのか。どこへも行けるキャロル。世の中には2種類の人間がいる。様々な選択肢を持っている人と、一つの生き方しか許されない人。

世界の民族入門、宗教入門を読んでいるけれど、今の若者はそういう範疇にくくられていないで生きている気がします。水曜日に来た三人は、台湾生まれでニュージャージーに住むリーダー格のレベッカと、韓国人でシャネル?に身を固めた31歳のメル、それにキャロルなのですが、旅先で知り合って、今回一緒に体験に来てくれたのです。食事に行っても三人とも違うものを食べるのだと笑っていたけれど、微妙な空気感もあって、男女込みの旅というものはある意味難しい。三人並べて私が写真を撮ると、女っぽいメルがペタッとキャロルに体を寄せてくるし、着物を着て街を歩くのは恥ずかしいと言いながら、電車に乗って座ると足を組むので着物がはだけて前の座席の乗客が目を背けてしまいました。東京観光の写メを見せてもらっていると、大人のおもちゃのお店の商品が並んでいるのをわざわざ見せてくれて、なんだかよくわからないのが韓国人の特徴のような気がします。

女性陣が途中で着物の選択を変えてしまったことを、レベッカは悪いと思ってレビューで謝っていたけれど、長考のゲストは多かったし、あまりに沢山ある着物を見ていると迷うのもよくわかります。なんにせよ、何を着てもゲストは綺麗なのです。私はそれを見ているだけで満足し嬉しいのだけれど、レベッカはそんな風に気を使って見ていたことに驚きました。小児まひで体が小さいママは教師、パパは牧師さんで彼女はオーナーと言っていたけれど、ソニーのカメラでたくさん写真を撮っていた時は元気で張り切っていたのに、途中でカメラのバッテリーが切れて写真が撮れなくなってからはテンションが下がり、でもそれからはスマホの写真を色々見せて、いろんな話をしてくれ、最後のプレゼントで着物と帯とママに着物ショールをあげることが出来てよかったのでした。キャロルには頂き物の林檎を3つプレゼントすると、流しで洗ってすぐ丸かじりしている姿が可愛くて、私はまたかまってしまうのだけれど、レビューに今度は一人で来て私とおしゃべりしたいとあり、でも残念ながら彼の英語はかなり聞き取りにくかったのです。

夏にメキシコの女の子と、中国とアメリカのハーフの女の子が来た時、レビューに「go above and beyond」―求められている以上の働きをする―とあり、ものの見方が外国人はとても面白いと思うのだけれど、私がやっていることや気を使うことが、わかって理解して感謝してくれているのが意外なのです。

 

メキシコ人のカップルに教えてもらった地元のお寿司屋さんのひれ酒や穴子をまた食べたくて、土曜日の夕方に夫と行って見ると、あとから来た常連さんのお父様が義父の知り合いで、話が盛り上がり楽しい時を過ごしました。20年前に東ヨーロッパを旅したことを懐かしく話して下さり、音楽も大好きでピアノ、サックス、クラリネットを演奏し、好きな作曲家はバッハとクープランで、楽譜も自分で書いているのを見せてもらいました。英語がダメでハンガリー人に習ったドイツ語を話し、スロバキアやオーストリアへ行った話など面白く聞いていました。

相手は日本人の方で、日本語で話しているけれど、私はゲストと一緒にいる時と同じスタンスで相手の目をずっと見ながら、この方の中に今ひと時だけ入りこみ、彼の心象風景や描く物を想像していきます。20年前の話だから、現代と違うところもあるけれど、ヴィヴィッドに語られるヨーロッパの話を聞きながら、いろいろな巡り合わせがあるものだと感慨にふけってしまいました。

あのメキシコのカップルがこのお店に来なかったら、私たちは知ることがなかったこのお寿司屋さんは、海外へ通じる異空間でした。ハーモニカをバッグから取り出し、酔いに任せて吹いてくださったのが、アニーローリー、埴生の宿、そしてダニーボーイでした。星野源さんがキースジャレットのダニーボーイが大好きで、そのピアノのコード進行に随分影響を受けたと語っているのを聞いてから、私もユーチューブで良く聞くようになり、共演していた松重豊さんが、歌手のリアンラハヴァスが好きだと言って見せてくれた彼女の映像がチャーミングでそこから、彼女が歌うゴッホの映画「星月夜」の曲を聞いたのです。ちょっとしたきっかけでどんどん世界が広がっていくスピードが最近とみに増してきたのは、ゲストと話していて会話のスピートや語彙についていけないことが多くて、そんな時いかに自分の過去の経験や知識から糸口を拾って、想像し会話をつなげていくかという訓練を積み重ねていくからだろうと思っています。

これからエアビーのサイトの内容を代えようとしています。今までの思いや言葉を全て伝えたいのではないのだけれど、その時々の感情や言葉は実は多くの人達が共有しているもので、何かを伝えるというのは、表現方法や日常の捉え方を変え、自分の方法で、絶対的な一つの答えを持って、すべての疑問を説いていく覚悟が必要なのかと思います。いくら待っていても、いくら我慢しても、助けは来ないのです。自分で探し、自分で見つけ、自分で前に進むしかない。

I am so happy that we chose this session over the others because you can tell how much care and sincerity, she puts into it.  

 レベッカのレビューはこんな言葉で締めくくられていました。