クロエ   2023年8月

昨日来たフランス人の男の子からの予約のメールに、「前の彼女と4年前に着物体験をした」と書いてあって、お茶を点てている自分の写真が添えられていました。その横顔を見ていてもどうしても思い出せず、ギヴアップだと返事をしようとして、不意に思い出したのは、彼女が紺地に朝顔の描かれた京都のひで也工房の浴衣を着ていて、この浴衣を着た女の子の特集のファイルを作って、来たゲスト達に見本として見せていたことです。彼女のそばにいる大きい男の子、メデリックが違う彼女とまた来る、彼のプロフィールの写真を見ると、今度は髭を生やし、随分大人っぽくなっています。

なんだか最近私はゲストたちの親戚の叔母さん化してきて、外国人の甥っ子や姪っ子が遊びに来る感覚で、この前とは違うもてなし方をしなくてはと思っていると、突然凄い雨が降ってきて、すぐ止んだものの若い二人はどこで濡れている事やらと心配していました。少し遅れるとメールがあり、ほどなく濡れた傘を持って現れた190㎝のメデリックはドラえもんのTシャツを着てスニーカーはビショビショ、160㎝の可愛い色の白いクリエは丸い眼鏡をかけ、サンダルだから足を拭くだけで上がってもらいました。

 前の彼女はしっかりした強いタイプだったけれど、今度の彼女は可愛くてふわふわっとした感じの女の子です。彼のお兄さんの奥さんの妹さんだそうで、でもお姉さんとはずいぶん年が離れていて、どうもお母さんは再婚してクロエちゃんが生まれたようです。ハネムーンのゲストが最近多いので、一応結婚したのか聞いたけれど、これは余計なお世話で、ノルウェーやスウェーデンは若くして同棲するけれど、決して結婚するわけではないし、フランスも籍を入れないで一緒にいるケースも多いそうで、全く彼氏がいないグループ、男の子は必要ないという女の子、盛大な結婚式の写真を見せてくれるけれど、この二人上手くいくのかしらというカップルもいたりして、ほんとうに様々です

 振袖を着てたくさん写真を撮り、着替えて紫の模様の付いた浴衣を着た彼女は、紫のひで也工房の浴衣の彼と柴又へいき、暑いのでクーラーの効いたお店でアイスを食べ、一通りお寺のコースを回りました。英語があまり得意でない彼女の代わりに彼はよくしゃべり、この前来たとき以上に雄弁で、思わずよくしゃべるねと言ってしまった私は、本当に親戚のおばさんです。わりと静か目に体験が終わり、最後に梅酒を飲んでプレゼントをして、帰ろうとしたら彼の靴がびちょびちょで、ああタオルを入れて乾かしてあげればよかったと反省しながら、新しい足袋ソックスを履いてもらって、彼らは帰りました。

 

 二回も来てくれたメデリックだけれど、新しい女の子との三回目はダメよ。今更私が言うことではないのだけれど、フランスは離婚が多いというし、他の国にしても離婚、再婚、また離婚と目まぐるしい変遷をたどっているゲスト達の話を聞いていると、生き方にしろ恋愛にしろ、どんな結末が待っていようと、自分の考えるように、感じるように進むしかないのだろうなと思うのです。自分の中の闇に敏感で、小さい頃から皆と同じことができないことに気がつき、どうしたらいいのか悩む過程で、自分の中ある光を大事に育て、それを紡ぎ続ける努力をし続けていくアーティストやアスリートの会話を聞いていて、先が見えない世界に進むということは可能性があるということだし、ハーメルンの笛吹きの話のように悪意を持って笛を吹き続ける男の後を何も考えずについていったら、みんな海の中に飛びこんでしまうこともあり得るのです。自分の好きな音楽や芸術に対する感性を大事にし、それが周りと違っていてもためらわず前に進む努力をし続けることが、最終的に道を開き、共感する人々と巡り合うこともできる。私は、自分の子供たち、そして私のところへ来てくれたたくさんのゲスト達に言いたい。今こそ真剣に自分のできることを考え、生き延びるためのどんな努力をしたらいいか、それをするための相棒、パートナーがいればベストだけれど、たとえ一人でも、それを支え励ましてくれる沢山の魂たちがあるということを信じていくことが、今一番必要なのです。