Taste of China 2023年7月

35度を超える暑い日曜日にやってきたのはコネティカット州で「Taste of China」というレストランを経営しているパパとママと、バレーボールのコーチをしている26歳のジョイスと15歳のジョアンナの四人でした。早々やってきたファミリーは近くのコーヒーショップで涼んでから一時ちょうどにやってきたのですが、少し前に去年七五三の着付けをしたなるき君がおじいちゃんおばあちゃんと家の前を通りかかり、私を見つけて入ってきて、刀で遊びたい、二階や屋上へ行きたいとリクエストしてきたのです。

 七五三の着物を着たがらないので何とか説得するため、刀で遊んだり屋上で戦ったりいろいろ手を尽くしたことをまだ覚えていてくれたんだと私は嬉しくなりましたが、もうすぐゲスト達が来るから今度ねと言っていたら、外に四人の人影が見え、私は仕事モードに突入し、なるき君にさよならも言わないで別れてしまったのだけれど、きっと彼はあっけにとられたことでしょう。パパは英語はわからないけれどジョイスは何回も日本へ来ていて、日本語も上手で、少し涼んでから立派な体格のパパにはお相撲さんの浴衣を着せ、女性陣は髪の毛が多くて硬いので苦戦しつつ何とかアップにまとめてかんざしや花飾りをつけ、それぞれ浴衣を選んできてもらうと、清々しい家族の肖像が出来上がりました。 

 それぞれ写真を撮り、夫婦のツーショット、姉妹、父娘と、うちわを持ったり刀を持ったり、肩を組んだり目を見かわしたり、様々なポーズをとる皆さんは嬉しくて、とても幸せそうでした。柴又へ行くのは諦めて、ゆっくりティーセレモニーをして、四人にお茶を点ててもらい動画を撮り、二階で神棚や仏壇、たたみ、障子、鎧を見て、最後は枝豆に日本酒、ビールで乾杯しながらいろんな話をしました。中国政府の政治に不満を持つチャイニーズアメリカンは多いのですが、彼らもアメリカに渡り、レストランで仕事をしながら子供を育て、暮らしているのです。美味しいのは麻婆豆腐だそうで、そんな話をしながら今日はどこへも行かないうちだけの体験を終え、ママとパパには長襦袢やウールの着物、娘さんたちには桜の髪飾りをプレゼントして、みんなは楽しそうに帰って行きました。

 

 柴又へ行っても仏教彫刻には興味がなかったかもしれないし、今日はこれで良かったと思いながら家族四人で浴衣を着て掛軸の前で撮った写真を見ていて、あっと思いました。日本の家族でもこうやって浴衣を着て写真を撮ることなどあまりない、ましてみんなで抹茶を点てて飲み合うなんてこともない、でもこの文化というものが、民族は違えど人の心に染み入るものなのでした。パパの嬉しそうな顔、アップにした髪が素敵なママや娘さんたち、初めての浴衣を着て、涼しい日本の家の中で穏やかに四時間過ごしたことが、結局日本文化の本質なのかもしれません。